プレーバック日刊スポーツ! 過去の2月2日付紙面を振り返ります。1994年の1面は女子プロテニスの伊達公子でした。

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<テニス:東レ・パンパシフィック・オープン>◇1994年2月1日◇東京体育館◇女子ダブルス1回戦

 全豪オープンで4強入りした女子プロテニスの伊達公子(23=ヨネックス)が、帰国初戦で女子テニス協会(WTA)から750ドル(約8万2500円)の罰金制裁を受けた。宮城ナナ(22)と組んでダブルスに出場。第1シードのラリサ・ネーランド(27=ラトビア)ヘレナ・スコバ(28=チェコ)組に6―0、6―3で圧勝したが、試合後の記者会見を拒否。会見出席を義務付けているWTAから規約にのっとっての今年初の罰金を科された。

 異変は試合終了直後に起こった。記者の要請を受けたWTA側が、伊達と宮城に記者会見を要請した。ところが伊達は、これを拒否して理由も告げず早々と会場を後にした。全豪オープンで日本選手として21年ぶりにベスト4に進出。当然、伊達は今大会の最大の目玉。その主役の突然の会見回避に、約60人の記者、関係者の詰めているプレスルームは騒然となった。

 通常、テニスのトーナメントで報道陣は会見以外で選手に接触することはできない。このため、「WTAの要請があれば、選手は記者会見に応じなければならない」と規約で定められている。「伊達もこの規則は知っているはずだ」と広報は話す。WTAは話し合いの結果、規約通り、伊達に750ドルの罰金制裁を決定した。

 1月28日の帰国当時から伊達の機嫌は悪かった。空港のゲートでは帽子を深くかぶり、報道陣を無視。到着ロビーで渋々会見に応じたが、たったの120秒だけ。31日に行われたパーティーでも選手紹介にステージに上がっただけで、ただ一人、出席した関係者と歓談もせずに帰ってしまった。

 しかし、伊達にも話せぬ事情はあったようだ。昨年暮れに友人である俳優の中井貴一(32)との仲を「熱愛」と報道され、全豪出発前に「人間不信に陥って、やせてしまいました」と漏らしていた。また、31日の歓迎パーティーであいさつしたWTA選手協会会長でもあるパム・シュライバー(米)にスピーチを日本語に訳すように促され、英語の苦手な伊達は口を開くこともできずショックを受けていた。

 「豪州でのツアーの後、休養が短く、疲れもあるため、少し休養して気持ちを集中させたい」と、マネジャーを通じてWTAに会見拒否の理由を出したという。しかし、伊達以上のハードスケジュールで今大会に出場したグラフやサバチーニは、笑顔で会見に出席しているだけに、この理由はいまひとつ説得力に欠ける。このまま、会見拒否が4度続くと選手委員会にかけられて、特別制裁を受けることになる。

☆細川首相と手合わせも

 この日は、残念な騒動を起こしてしまった伊達だが、一方では、細川護煕首相(56)とテニスの手合わせをするという楽しい話題を提供してくれそうだ。日本テニス協会関係者によると10日の理事会で、伊達を首相のヒッティングパートナー(テニスの相手)として推薦する旨の提案が出される見込みだ。

 首相は、日本テニス協会の顧問でもあり、熊本県協会の会長を務めるテニス愛好家だ。現在は日本協会のほかの顧問がヒッティングパートナーを務めているが、これに伊達も加えようという発案だ。「テニス界の実情を知ってもらえるし、政治改革も終わり、時期的にちょうどいい」と関係者は話す。さらに、女子の強化費も倍増の8000万円となることが濃厚になった。これまで3対7で男子に比重が置かれていたが、これで4対6。来年のジャパンオープンの賞金も男子と同額になり、広島アジア大会も金500万円、銀300万円、銅100万円の報奨金が決定するなど「伊達効果」は着々と表れてきている。

 ◆世界スポーツ大舞台では◆ ゴルフの場合、紳士のスポーツでもあり、取材拒否はプロとしてのマナーに反する行為。プレー中以外に取材を拒否することは、プレーヤーとして失格のらく印を押される。欧米のトッププロがプレー後の記者会見を拒否することは皆無に近い。またF1などのモータースポーツでも、心身に異常がない限りレース後の記者会見は慣例。スポンサー等の配慮もあり、メディアに登場することは仕事の一つでもある。総じて海外のプロ選手は、スポンサーとファンあってのものという考え方が根付いており、その仲介役の記者を無視する行為は「仕事放棄」と認識されている。

 ★ルールでは◆ WTAのルールでは、その16章(選手責任)のB(試合後の記者会見)によって、選手の試合後の記者会見を義務付けている。勝ち負けにかかわらず、要求された場合には、会見に応じなければならないとされる。ただし、試合後1時間以内に次の試合に出場する時は、次の試合の終了後でもよいとされている。

 規約では、違反した(会見に応じない)場合の罰金も定められており、その違反の回数によって高くなる。そのツアー年度の最初の違反の時は750ドル(約8万2500円)だが、2度目は1500ドル(約16万5000円)、3度目は2000ドル(約22万円)となる。

※記録と表記は当時のもの