大学生の視点から大学スポーツの課題と未来像について議論する「大学スポーツ国際デー記念シンポジウム」(日刊スポーツ新聞社など後援)が10月23日、東京都千代田区の連合会館大会議室で開催される。全国大学体育連合の安西祐一郎会長をはじめ、スポーツ庁の仙台光仁参事官、陸上の元トップアスリートの為末大氏らが一般学生代表者とともに登壇。大学スポーツの未来について議論し、来年度中に創設される日本版NCAAへの意見提言につなげる。シンポジウムを共催する一般社団法人ユニサカの原田圭理事(慶大3年)に、開催の意義から大学スポーツの課題、ユニサカの取り組みや、目指すべき方向性などについて聞いた。【取材・構成=首藤正徳】
--シンポジウムには体育会学生や一般学生が200人以上参加予定で、事前に勉強会も行うそうですね。まず開催の意義について教えてください。
原田 スポーツ庁は来年度中に日本版NCAAの創設を目指しています。その大学スポーツ政策において、主役である学生の意見が置き去りにされている現状があります。学生が主体となって大学スポーツの課題や未来を真剣に考え、意見を発信できる場をつくりたいと思いました。シンポジウムにはスポーツ庁の政策担当者やスポーツ政策に直接関わる人たちが参加されるので、その人たちに学生の意見を直接届けてほしいと思っています。
--確かに米国のNCAAを参考にして、国内の大学スポーツを統括する日本版NCAAは、スポーツ庁が中心になって政府主体で進められている印象が強いですね。
原田 私もそう感じています。ただ、選手以外のほとんどの学生が参加できていない大学スポーツの現状にも問題があると思っています。運営も部活の主務やマネジャー、あるいはOBだけで管理していて、一般学生が関わることがほとんどないし、その発想もない。体育会の学生も競技一筋で学生生活が終わってしまいます。それでは大学スポーツは先細りしていくだけで、発展できない。今の大学スポーツがなぜ人気がないのか。なぜお金を呼び込めないのか。その根幹の課題を学生が議論する土壌がなかった。今回のシンポジウムがそのきっかけづくりの場になると考えています。
■収益化なくして発展なし
--9月に日本版NCAAの創設に向けた学産官連携協議会のメンバーに大学生で唯一、原田さんが選ばれました。どのような議論をするのですか。
原田 3つのグループに分かれています。1つが安全安心ワーキンググループ。監督や指導者が不在だったり、トレーナーのいない部もあります。また保険の管理ができていない部もあるので、選手がいかに安全かつ健康的にスポーツを行えるかを議論します。2つめが私も入っている学業充実ワーキンググループ。学生アスリートがどうすれば競技と学業を両立できるかを議論します。3つめがNCAAをどう運用していくかを考えるマネジメントワーキンググループです。来年3月までに制度的な詳細部分をつめていきます。
--大学教授や官僚、企業トップなどそうそうたるメンバーが名前を連ねています。大学生代表として責任重大ですね。
原田 大人のメンバーの方にはそれぞれバックボーンがあり、利益集団の代表者として参加されるわけです。そんな中でバックボーンのない真っ白な学生という立場を強みにして議論に参加したいと思っています。フラットな立場で大学スポーツを見ることができるので、フラットな視点で議論ができると思いますし、そこが自分に求められていると思います。言いたいことはズバッと言いたい。ある意味で楽しみですね。
--日本版NCAAでは政府が大学スポーツを一元管理して振興強化することで、収益力を上げることを目指しています。つまり大学スポーツの産業化ですが、体育会の伝統や体質を変えるのは簡単ではありません。
原田 それでも変えなければならないと思っています。収益化、産業化には賛成です。今の時代、収益化なくして発展は不可能です。今の大学スポーツは大学からのわずかな補助金で活動するか、それがない部活はOB会が経費を負担しています。OB会のない、あるいは力の弱い部活は部員から徴収するしかありません。部員数が多く、全員が寮に入っているような部活は異常に部費が高かったりします。少子化でこれから学生数が減っていくだけでなく、国から大学への助成金も減少しています。その一方で大学の数が増え続けている現状があるため今のモデルのままだと、大学スポーツが終わってしまうという危機感を抱いています。
--とはいえ大学スポーツといっても私立と公立の違いがあり、競技間や大学間の格差も大きい。その調整は難しい。
原田 私もそこはすごく難しいと思っています。全競技で稼げるわけではないし、米国のNCAAでもバスケットボールで大半を稼いでいます。強いチーム、稼げるチームは声が大きくなり、パワーバランスが崩れると特定の大学による独占が強まる可能性が高い。一方で大学と学生の間には情報格差が生まれ、大学が収益を正当に分配しないケースも出てくるでしょう。その対策として仮りに学生がエージェントを雇ったとしたら、お金が外部に流出することになってしまう。つまり、独占と情報の非対称性という市場の失敗が起こる可能性が非常に高いということです。細かい制度づくりがすごく重要になると思います。
■慶大ソッカ―部創設ユニサカ
--企業スポンサーが付けば、当然、対価として成果が求められます。指導者や選手の重圧もこれまでの非ではありません。
原田 投資の対価として結果が求められると、選手はより競技に全力を注ぐことになります。そうなると私たちの学業との両立や安全安心の議論も、市場原理に基づいてすべて振り切られてしまう危険性があります。また日本ではセレクションなどがなく、誰でも入部できる部活も珍しくありませんが、全員に投資するメリットはない。米国の大学のチームも少数精鋭で20人くらいでやっています。日本の大学スポーツが重要視してきた教育の側面が失われてしまう可能性もあります。さらに米国では結果を求めるあまり、大学側も絡んだ不正が行われたケースもあったようです。その意味でもマネジメントの部分が一番重要になってくると思います。実現へは議論しなければならない課題がまだまだ山積みです。
--ところで原田さんが理事を務めているユニサカは16年2月に慶大ソッカー部が始めたプロジェクトで、今年5月に一般社団法人化されました。どのような活動をしているのですか。
原田 伝統のサッカー早慶戦(早慶クラシコ)の魅力をもっと引き出して、多くの人に楽しんでもらいたいということで始めたプロジェクトです。大学スポーツは人気がない。経済基盤が極めて弱いので、競技力も向上しない。そこで早慶の部活とは関係のない学生を多く巻き込んで、早慶戦の人気を最大化することで集客と収益の両方の数字をアップさせれば、やがて大学サッカー全体のファンも増えて、人気と収益も向上する。それが設備投資にもつながって、競技力向上に結びつくというビジョンを持っています。
--どんなメンバーで構成されていますか。
原田 メンバーには社員という形で社会人もいます。理事は学生8人。慶大や早大、東大の学生もいます。プロジェクトごとに関わる人が変わります。例えば7月の早慶クラシコは約30人の学生が参加しました。今回のシンポジウムには約20人の学生が参加しています。
--7月の早慶クラシコは成功しましたか。
原田 集客数は昨年の1万2000人から1万4500人に増えました。収益の詳細な数字は明かせませんが、大幅に増加しました。ただ目標が2万6000人の満員だったので、成功したとは思っていません。一方で、これまで部のマネジャーやOBだけでやっていた運営にユニサカが関わり、両部とは関係のない一般学生が、クラウドファンディングやグッズのクリエーティブといったところで中心になって成果を出してくれたことは大きな収穫になりました。
■大学スポーツを学びの場に
--閉鎖的といわれる大学の体育会の大会運営に、部外者が参加できたのは画期的なことです。
原田 ユニサカの代表も副代表も体育会のソッカー部の中心選手でした。その現場の学生がアクションを起こしたからこそ一般学生たちも動かせたのだと思います。大学スポーツを盛り上げたいという学生は少なくないのですが、なかなか中に入っていけない。やはり体育会の当事者の学生自身が大学スポーツを見つめなおして、どうすればよくなるかを考えて行動を起こさないと、変わっていくことは難しいと思っています。
--確かにもっと一般学生が参画できるようになれば、大学スポーツも盛り上がると思います。
原田 スポーツビジネスに関心のある学生は大勢いますが、みんなJリーグやプロ野球のチームにインターンに行くのが王道です。大学スポーツという発想はありません。でも大学スポーツは開拓されていないところも多く、自分たちで積み上げられるものが大きくて、学ぶことが本当にたくさんある。自分もすごく成長したと思います。スポーツに関心のある学生にはぜひ大学スポーツを学びの場として活用してほしいと思っています
--最後にユニサカの目指す理想型とはどういうものですか。
原田 自分たちで大学スポーツを変えていく。それぞれの部活で問題意識を抱えた学生と一般学生をつなぐ架け橋としてユニサカという組織はあります。将来的には大学、競技を横断的に、いろんなプロジェクトを展開したいですね。今年の大学1年生が4年生になったときに2020年東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。スポーツを支える頂点にあるのが20年大会のボランティアだと思っています。そのためには裾野を広げないといけない。その裾野にある大学スポーツを広げていくことが、ユニサカの役割なのかなと思っています。
★大学スポーツ国際デー記念シンポジウム~学生が発信する大学スポーツの未来~
◆日時 10月23日午後6時15分~8時30分
◆会場 東京都千代田区神田駿河台3の2の11 連合会館大会議室
◆収容人数 270人
◆参加費 学生無料、大体連会員3000円、非会員5000円