レスリングの昨年の世界王者で東京オリンピック(五輪)代表の文田健一郎(24=ミキハウス)が21日、男子グレコローマンスタイル60キロ級で3年ぶりの優勝を飾ったアジア選手権(インド)から帰国した。五輪での第1シードを確実にし、「特別なこと。絶対に取りたいと思っていた。ふさわしい試合をしたい。良い緊張感を持てると思う」と志した。

「ふさわしさ」は、試合での具体的なイメージを結ぶ。やはり、投げてナンボ、だ。文田の10代の頃からの信条は、グレコローマンの魅力は豪快な投げ技にこそある、その1点で揺るがない。代名詞の反り投げを看板に、世界舞台でも数々のインパクトを残してきた。ただ、当然世界王者として研究もされる。「今回の大会でも感じましたね」と組ませることを徹底的に嫌う対戦相手ばかり。その対策の上を行く寝技で取り切るスタイルに自身も進化し、手応えはある。それでも、「やっぱり、僕はスタンドで取り切りたい」。それが五輪イヤーにアジアを制しての率直な思いだった。

立ち姿勢での攻防、組み手争いで優位に立つことはできる。相手の消極性を引き出し、優位に進めることはできる。ただ、それでは「信条」がうずく。「有利なところから投げにつなげたい。それがベスト」。これから本番までの5カ月は、そこの細かな技術を磨き上げていく。

勝負の時が近づくが、良い意味で自然体は変わらない。「いや~、初めてですね」と恥ずかしそうにしたのは、レスリングシューズを日本に忘れてインドに渡ったこと。浴室乾燥させたまま、「朝、気付かなかった」と機上の人になった。現地、初練習前にあわて、コーチに借り、試合までに後発組の女子選手に持参してもらい事なきを得たが、「もうないようにしないと」と照れ笑い。学生時代の通信簿の忘れ物欄は常に「△」だった性格は、いまでも、五輪イヤーに入ってもそのまま。本番は母国。さすがに忘れ物もないだろう。8月、幕張メッセの会場を豪快な投げ技で沸かせるのみ。【阿部健吾】