フィギュアスケートの世界ジュニア選手権は4日、エストニアのタリンで開幕する。

中学3年生の河辺愛菜(15=関大KFSC)は昨年11月の全日本ジュニア選手権を制し、初出場を決めた。憧れの浅田真央さん(29)と同じトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を武器とし、同門の紀平梨花(17)を手本に急成長中だ。22年北京冬季オリンピック(五輪)出場を夢見て、世界に存在感を示す舞台がやってくる。

   ◇   ◇   ◇

ぼんやりとしていた22年北京五輪が見え始めた。

昨年11月の全日本ジュニア選手権。河辺はフリーで3回転半を初めて決めると、得点発表に目を見開いた。初優勝で世界ジュニア選手権の切符を手に入れた。

「思っていたより、10点ぐらい上の点数(合計193・57点)が出た。今までで一番うれしかったです。試合でジャンプを決めた瞬間や『(採点を待つ)キス・アンド・クライ』で『何点出るのかな?』って点数を見る時間が好き。試合が好きじゃないこともあったけれど、結果が出るようになってからは楽しいです」

急速な成長が際立った。前年は予選会である西日本選手権で28位。全日本出場どころか、上位24人のフリーにさえ進めなかった。

その春、父を名古屋に残し、母と弟の3人で大阪・高槻市に引っ越した。半年という時間は、結果を出すのに短かった。紀平らを指導するコーチ、浜田美栄の下で苦手なループやルッツの改良に粘り強く励んだ。

「先生に『名古屋から来たんだから、ちゃんと結果を出さないとね』と言ってもらいました。どんどん落ちていきそうだった時に、練習の姿勢が変わりました。ループは跳び方が変わって、1年ぐらいして、やっと跳べるようになった。ちょっとずつだけれど、良くなった。跳べない時は『前のに戻したい』っていう気持ちもあったけれど『言われたことをやった方がいい』って言い聞かせました」

憧れは「浅田真央」だった。スケートを始めたのは5歳。同時期の10年バンクーバー五輪で銀メダルを獲得し、世界で戦うヒロインに心をひかれた。名古屋スポーツセンター(大須スケートリンク)は、自宅から車で10分。浅田を育てた山田満知子が、最初のコーチだった。

「真央さんのアクセルが印象的で『跳びたいな』って思って…。でも、最初はジャンプがあまり好きじゃなかった。そこから2回転が跳べるようになって、うれしくなりました。その喜びは今でも覚えています」

小3からは同じ名古屋が拠点の名伯楽、長久保裕に師事。06年トリノ五輪金メダルの荒川静香らを教えたコーチに、基礎を学んだ。

「朝練だと1時間ぐらい、みんなでスケーティングをする。ダッシュをしたり、クロスをしたり。得たものがたくさんありました」

転機は18年春だった。長久保が17年秋に退任。ジャンプの向上を目指し、大阪での生活が始まった。浅田の代名詞だった3回転半の練習では、隣で次々に着氷させる紀平を手本とした。

「梨花ちゃんの存在は大きいです。全然跳べない時も、見てイメージが分かったりする。自分のタイミングと合わせたり、参考にさせてもらっています」

大技習得のきっかけは、19年5月に参加した米コロラド合宿。ハーネス(体をつり上げる補助器具)を使い、感覚を少しつかんだ。極めて繊細な「コツ」は、独特な表現に凝縮される。

「後ろから滑って跳ぶのは全然怖くないんですが、アクセルは前から跳ぶので怖かったです。初めてクリーンで降りた(着氷した)時は『ふわっ』と浮いて『グッ』っていける感じで(笑い)。ちょっと力を抜いていった方が『シュッ』っていけた感じがしました。でも次の日に跳べなかったり…。『何でだろう?』って思いながら、梨花ちゃんを見て『こうしてみようかな』と考えたりしました」

3回転半を武器に急成長した今季。年明けの1月には、ユース五輪へ出場した。結果は4位だったが、五輪のマークを見ながら過ごした時間は財産になった。

「選手村があって、他の競技の人と一緒に過ごすのが新鮮でした。いつもと違っていて、ちょっと(五輪への)イメージが変わりました。試合以外のところも楽しかったです」

目前の世界ジュニア選手権では、国際スケート連盟公認大会で自身初の3回転半成功を目指す。4回転も練習する15歳は、2年後の大舞台へ素直な思いを明かした。

「ユース五輪に参加して『また行きたい』って感じました。北京五輪に…行けたら行きたい。世界ジュニアではアクセルだけじゃなくて、いい結果を残したい。(来季から)シニアに上がれるように、結果を出したいと思います」

まずは世界の同世代を相手に、その可能性をぶつける。【松本航】

(敬称略)

 

◆河辺愛菜(かわべ・まな)2004年(平16)10月31日、名古屋市生まれ。5歳で競技を始める。憧れの浅田真央さんとは、小学生の時に出演したアイスショーで1度だけ対面。サインをもらった。19年全日本ジュニア選手権、20年全国中学校大会で初優勝。同年ユース五輪4位。趣味は愛犬と遊ぶことで、好きな歌手は嵐の櫻井翔。好きな食べ物はチーズなど乳製品。153センチ。

 

◆世界ジュニア選手権の各種目開始時間(日本時間)、出場予定の日本代表

〈4日〉

午後7時40分 男子ショートプログラム(鍵山優真、佐藤駿)

〈5日〉

午前2時15分 ペアショートプログラム

午後8時15分 アイスダンス・リズムダンス(吉田唄菜、西山真瑚組)

〈6日〉

午前1時半 ペアフリー

午後5時45分 女子ショートプログラム(河辺、川畑和愛)

〈7日〉

午前1時15分 男子フリー(鍵山、佐藤)

午後6時45分 アイスダンス・フリーダンス(吉田、西山組)

午後10時45分 女子フリー(河辺、川畑)