6台に自力優勝の可能性があった激戦のGT500クラスを予選7位の山本尚貴、牧野任祐組(RAYBRIG NSX-GT)が劇的な逆転で制し、総合優勝を決めた。ポールポジション(PP)から2年ぶり2度目の王者へ向けて快走していた平川亮、山下健太組(TGR TEAM Keeper TOM,S)の平川がゴール直前で燃料切れのため失速し、山本が逆転チェッカーを受けた。

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誰もが目を疑った。3年ぶり2度目の総合優勝へ向けて平川がトップで最終65周目の最終コーナーを抜けた。2番手の山本の追い上げに苦しみながらも燃料をセーブし、勝利のチェッカーまでおよそ500メートル。ところが突然スピードが落ちた。のろのろ走行の脇を山本が抜き去った。「何があるのか分からないのがレース。最後まであきらめないで良かった」。逆転王者を決めた山本は、運転席で何度も右拳を握った。

山本も目を疑っていた。「ずいぶん余裕こいてウイニングランしているなと思っていたけど、これはガス欠だと思った」。喜んだのは一瞬だけ。山本も燃費と戦っていた。「前に出て、自分の身に降りかかってくるかもと、喜びから急に不安が押し寄せてきた。あの500メートルほど長く感じた500メートルはなかった」。事実、ウイニングランの途中で燃料切れのアラームが出て、最後まで走りきれなかった。

レースを見守っていた牧野も目を疑った。「想像していなかった結末。チェッカーが出たときには、どういう感情かよく分からなかった」と話した。

綿密な計算をしていた。ほかのチームより硬めのタイヤを選んでおり、タイヤが温まって本領を発揮する後半勝負とにらんでいた。牧野から山本に交代した時点では、直線スピードの速い平川組に15秒以上も差をつけられていた。山本はスーパーGT参戦11年目で、2年前には元F1王者バトンと組んで王者にもなっている。タイヤと燃料をセーブしながら1周1秒のペースで追い上げていった。「理想通りのレースだった。経験が生きた」と言った。

実は結末も計算通りだったのかもしれない。「最終周では追いつけないので、止まれと思って走っていたのが本音。全ての運を使った」。心残りはウイニングラン。「まるまる1周できるように、また牧野選手と王者を決めたい」。観客の誰もが王者を祝福できる結末を誓っていた。