2024年パリ五輪の追加競技として採用されたブレイクダンスの注目度が、高まっている。1対1やグループで踊って、採点で勝敗を決めるスタイルが一般的。今年1月には世界初のプロダンスリーグ「Dリーグ」が国内でスタート。競技普及や選手強化に一役買っている。3年後のパリでメダル獲得を目指す選手やそれを支える人に話を聞き、今後の展望を探った。

【取材・構成=平山連】

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■聖地 「ブレイクダンス界の聖地」が神奈川県のJR武蔵溝ノ口駅周辺であることは、あまり知られていない。多くのダンサーが、ここから世界のトップに上り詰めた。通常なら、サラリーマンの帰宅ラッシュが落ち着き始めた夜。コロナ禍の今は、少し人通りが少ないが、ダンサーたちは練習に明け暮れている。一心不乱に打ち込むダイヤの原石、この中に、未来のオリンピアンがいるのかもしれない。

日本ダンススポーツ連盟の石川勝之ブレイクダンス本部長は20年近く前、この地で練習していた1人だ。当時からダンサーが集まりにぎわいを見せていたという。「練習するため引っ越して来る人もいました」。18年には世界ユース選手権の最終予選を招致したり、子ども向けに体験会も開いている。五輪競技への採用を機に、地元からさらなる競技の発展につなげたいと意欲的だ。

「川崎は知らなくても、『ミゾノクチ』は知っているという外国人に会い、驚きました」。こう語るのは、川崎市職員の成沢重幸さん。ボクシングの英国代表関係者が市内を視察した時、行きたいところを聞くと、真っ先に「ミゾノクチ」を挙げた。趣味でブレイクダンスをしていることで知っていたようだが、海外にもその名が広く知れ渡っているのが印象に残ったという。成沢さんは「今後も市でもできる限りのサポートをしたい」と話す。

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■有力候補 プロチーム「コーセーエイトロックス」の監督兼ダンサー、イッセイ(ISSEI、23)は世界大会でも優勝経験があり、パリ五輪日本代表の筆頭候補とされる。4月5日時点で6試合を終えたDリーグでも存在感を放ち、チームは4位。その原動力になっている。「ダンスの技とエンターテインメントを両立させることは大変ですが、(パリ五輪で)メダルを取るために良い挑戦ができています」と目を輝かせる。

中学時代から世界大会に出るほどの実力者で、16年には世界最高峰といわれる1対1のバトルが展開される大会で日本人初優勝。音楽に合わせて体を自在に操り、観衆を魅了するスタイル。「ジャッジの視線やカメラの方向を気にしながら、見てくれる人たちにどうやったら伝わるだろうかとさらに考えるようになりました」。Dリーグ参加で、その特長に、さらに磨きを掛けている。

五輪での採用を、感慨深そうに振り返りながら、それぞれの技の出来栄えや勝敗を決める要素など、もっともっと一般の人に分かりやすく説明する必要があると感じている。五輪本番まであと3年。「フィギュアスケートのように個々の技への認識が高まれば、ブレイキン(ブレイクダンス)の魅力がぐっと広まる」と期待している。

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ブレイクダンスってどんな競技?

◆起源 1970年代にストリートギャングの抗争が絶えなかったの米ニューヨークのサウスブロンクス地区で「殺し合いをせず、音楽で勝負する」とDJだったギャングのボスが提唱したという説がある。向き合って踊る「バトル」という形が、自然に生まれたともいわれる。

◆ジャンル 1対1から2対2など、少人数の対決や、チームバトルなどさまざま。踊り手はその頭文字を取り「ビーボーイ」や「ビーガール」と呼ばれる。

◆DJ バトルでは音楽が流れる。DJが欠かせない。

◆構成は4つ 立ち踊りの「トップロック」、かがんだ状態で素早く足さばきやステップを繰り返す「フットワーク」、体のさまざまな部分で回転する「パワームーヴ」、逆立ちなど動きを止める「フリーズ」に、大きく分かれる。

◆審査方法 日本ダンススポーツ連盟では独自の評価基準を導入。技術、表現、構成と完成度、バトルの4つを各10点満点で判断。さらに意表をつくような表現に加点、技が崩れた時に減点する項目もある。パリ五輪では1対1バトルが行われるが、具体的な審査方法はまだ決まっていない。