貴乃花親方(37=元横綱)に逆転の「当選チャンス」が訪れた。2月1日予定の日本相撲協会役員選挙へ向け、混乱の続く二所ノ関一門が19日、東京都内で緊急一門会を開いた。会の冒頭に、一門を離脱した貴乃花支持の6人の親方が“破門”されて退席。票数を減らした同一門は、残る出馬希望者3人から、現職の放駒親方(元大関魁傑)と二所ノ関親方(元関脇金剛)の理事選擁立を決定。波乱の会議はけんか別れとなったが、鳴戸親方(元横綱隆の里)の辞退により、無選挙の可能性も浮上。「貴乃花理事」が誕生するかもしれない。

 開会から1時間がたっていた。会場から、貴乃花親方を支持する親方が続々と出てくる。間垣親方(元横綱2代目若乃花)は「一方的に決を採った。離脱しないほうがいい、と主張したけどダメだった」。貴乃花部屋付きの音羽山親方(元大関貴ノ浪)は「お互い譲らず、平行線だった。『出ていけ』というので、出ていくしかなかった」と語気を強めた。名門二所ノ関一門は、けんか別れで分裂してしまった。

 会ではまず、貴乃花支持者の処遇が話し合われた。「4人が立候補して何が悪い」という貴乃花派の意見に対し、ベテラン親方らは「一門の総意に従わないのはおかしい」。同じ論調はかみ合わず、議長の放駒親方は多数決を選択した。挙手では「出ていけ」が大多数。音羽山親方は「『破門』という言葉は使いたくないようだった」と内幕を明かし、「破門されたと思っていいか?」の問いに「そうとらえてもらって構いません」。事実上の“破門”だった。

 土俵外で続いた混乱は、「強制退去」による7人の大量離脱という最悪の形に終わった。同一門はこれまで29票を持ち、10票の当選ラインを見越して理事に「3人」を送り込んでいた。今回は現職の放駒、二所ノ関両親方に加え、新たに鳴戸親方と貴乃花親方が立候補を表明。共倒れを防ぐため3人への調整を続けていたが、互いに出馬意思を譲らず、8日には貴乃花親方が一門離脱を表明した。

 結果的には、貴乃花親方に当選チャンスが舞い降りるかもしれない。鳴戸親方の出馬断念により、現在の出馬希望者は12人。3人が立候補を希望し調整が続く立浪一門は、持ち票数から「2人」に絞り込む予定だ。鍵を握るのは、高砂と時津風一門が協力して擁立した鏡山親方(元関脇多賀竜)。両一門の複数の親方は「これ以上の混乱を防ぐために、無選挙になるのであれば鏡山さんが引く」と明かす。今後、二所ノ関一門はじめ「貴乃花理事」への反対勢力との駆け引きが出てくるが、鏡山親方が辞退すれば立候補者は10人。混乱は一転して無選挙になり、理事に決まる。

 「7票」の貴乃花親方は、ほかの一門の流動票を崩せずに苦戦していた。それでも年功序列や一門のしきたりを壊し、最後は二所ノ関一門を分裂させてまで、協会改革を目指す。貴乃花親方を支持する大嶽親方(元関脇貴闘力)は言った。「勝っても負けても一石を投じれば。5年、10年後に相撲界が『良かった』という話にしたい」。揺るぎない信念が、道を切り開いていくのか。「貴乃花グループ」の戦いは、これからが本番だ。【近間康隆】