貴乃花親方(37=元横綱)が、奇跡的な逆転理事当選を果たした。日本相撲協会の理事選挙が1日、国技館内で行われた。二所ノ関一門を離脱して強行出馬した貴乃花親方は、一門を「破門」された支持者と合わせて7票しかなかったが、票を固めていた他の一門から「造反者」がでて、10票を獲得した。角界改革の期待を受けての当選で、若い世代の考えを協会に反映させる意気込みを示した。選挙では、立浪一門の現職の大島親方(62=元大関旭国)が落選した。

 貴乃花親方に笑顔はなかった。当選が決まった瞬間、会場内ではまばらながら拍手が起こったという。「正直言いまして、身の引き締まる思いでした」と振り返った。前日までは笑顔で取材に応じていたが、終始厳しい表情。その点を聞かれ「そういう(厳しい)気持ちなので」と、理事という責務の重さがいっぺんにのしかかってきた様子だ。

 奇跡といえる逆転劇だった。二所ノ関一門から離脱してまで固執した理事選立候補。支持する間垣親方はじめ、6人の親方を「破門」の形で巻き込んだが劣勢のままこの日を迎えた。「予想外の(票の)上積みで、9人の支持してくれた親方に感謝している」と、自身も驚く結果だった。

 追い風はあった。1月28日の理事選立候補届け出当日に、朝青龍の暴力問題でけがをした相手がマネジャーではなく、一般人だったことが判明。力士暴行死事件、大麻事件などの不祥事が続く中で、相変わらず後手に回る協会上層部の対応の甘さに、世論からも批判の目が向けられた。

 「角界改革」を目指す貴乃花親方に、他の一門の「隠れ支持者」から期待を込めて「造反票」が流れたともいえる。「7人の結束を固めようとしただけですので。ただ、記者の方々の質問に答えて(報道で)目を通された方はいると思います」と、マスコミの取材に積極的に応じてきたことが、貴乃花親方流の選挙戦だったようだ。

 新理事会見では「理事長の下で、全力を尽くしたい」という言い回しを連発した。「改革」の中身については、理事としての所信表明でも「いろいろな意見がでると思いますので、相互理解の上でやっていきたい」と具体的な提案はなく、やや肩すかしの感はいなめなかった。

 それでも、声のトーンが上がったのは、若い世代の親方の代表としての行動を問われた時。「はい、考えます」と即答。「当初から私を推してくださった6人の親方の意見や主義主張はもちろん、その他の親方とも交流がないわけではないので」と「貴乃花世代」の親方衆の窓口になる意気込みを示した。

 現役時代、数々の最年少記録を更新し、国技館を常に満員にした。最後の優勝となった01年夏場所では、右ひざ半月板損傷の大けがをおして武蔵丸を優勝決定戦で破り「奇跡の優勝」とたたえられた。またも角界の常識を覆し、世間をあっと言わせた今回の当選劇。協会内部に新風を吹き込む形で実を結んだが、真価が問われるのはこれからだ。【赤坂厚】