<大相撲名古屋場所>◇千秋楽◇21日◇愛知県体育館

 結局、ダメだった。大関稀勢の里(27=鳴戸)は、先場所千秋楽で苦杯をなめた大関琴奨菊(29)に再び寄り切られて11勝にとどまった。1度は可能性が浮上した秋場所での綱とりはこれで消失。振り出しに戻った。

 何も答えなかった。答えたくなかった。稀勢の里はすべての質問に、今場所初めて、最後まで無言で通した。目はかすかに潤んでいた。何度もため息をついた。腕を組み「う~~~~~~~~ん」と長くうなった。テーピングを切るはさみを力なく落とす場面もあった。すべてを振り出しに戻す黒星に、頭も心も、いつまでも整理できなかった。

 負けられない一番だった。だから、綱とりに挑んだ今場所序盤と同じ重圧がのしかかった。取組前、何度も目をしばたたく姿があった。重圧を感じさせる中、1度目の立ち合いは気持ちがはやって突っかけ。心を見透かされた2度目は完全に負けた。腰が高く、右上手をあっさり奪われた。相手の圧力に足が下がるだけ。あえなく土俵を割った。

 先場所の千秋楽パーティー。琴奨菊に敗れた一番を何よりも「悔しい」と漏らす姿があった。場所前にも「千秋楽の方が消化しきれないものがあった」と明かした。その気負いも、重圧に加算されていた。借りを返すこともできなかった。

 白鵬の連勝を止めた感動は、一夜にして失望へと変わった。日本人横綱誕生を切望する人たちは、深いため息に包まれた。早い段階で今場所の綱とりが消えながら、秋場所へつながる可能性を持ち出した北の湖理事長(元横綱)も「今日の一番は大きい。ガラッと変わった。11勝では準ずる成績とは言えない。横綱になるには物足りない」と、振り出しに戻った考えを示した。伊勢ケ浜審判部長(元横綱旭富士)も「11勝は大関の成績。横綱の成績じゃない」と厳しかった。

 1度は死んだ身-。そう開き直ってから7連勝しながら、最後にまた重圧に倒れた。鏡山審判部長(元関脇多賀竜)は言った。「12、13勝で半端に行くより、気持ちよく決められるように頑張ればいい。まだ若い。次があるよ」。初めての綱とりは、苦さを残して幕を閉じた。【今村健人】