<大相撲初場所>◇11日目◇22日◇東京・両国国技館

 西前頭10枚目の遠藤(23=追手風)が「若貴」を超えた。東前頭12枚目の臥牙丸(26)を上手投げで下し9勝目。幕内3場所目で懸賞金の総獲得本数は104本に達した。90年代に相撲ブームを巻き起こした若乃花、貴乃花兄弟の幕内5場所目より速く「100本超え」を果たした。今日12日目は初の大関戦が組まれ、琴奨菊(29)と対決する。

 いつも以上に、遠藤は集中力を研ぎ澄ませた。理由は明確。臥牙丸との取組前、12日目に琴奨菊と当たることを知ったからだ。

 「気の抜けた相撲を取ったら明日につながらない。明日の割(対戦)が分かっていたからこそ、ああいう相撲が取れた」

 そう振り返った一番は、完勝だった。立ち合いで素早く左前まわしを取り、右上手もつかんだ。体重で54キロも重い臥牙丸の突進を止めると、右手に力を込めた。クルリと土俵で体を1回転半させて、豪快な上手投げを決めた。

 実力と人気を示す懸賞本数は昨年秋場所の新入幕から3場所目で合計104本(572万円=手取り5万5000円で計算)に達した。90年代にフィーバーを起こした若貴兄弟でも、懸賞総数が100本を超えたのは幕内5場所目。懸賞システムは当時と変わっておらず、遠藤には“若貴”をしのぐような期待が集まっている。

 お金の使い道には「情」がある。正月は、部屋の若い衆らにお年玉を配った。「新人なのに気を使ってくれて、1年間お世話になりました、という気持ちですよ」。サラリと話した。

 いよいよ、今日12日目は初土俵から6場所目で組まれた大関戦。雅山の5場所目に次ぐスピード大関戦になるが、勝てば入門6場所目で貴ノ花を破った長岡(後の大関朝潮)に並ぶ最速大関撃破になる。年6場所制となった58年以降、まげのない力士が大関を倒せば初の快挙になる。「やれるだけ、ありがたい。勝ち負けではなく、思い切りぶつかっていきたい」。失うものは何もない。無心で大関の胸を借りる。【木村有三】