<大相撲初場所>◇7日目◇17日◇東京・両国国技館

 西前頭4枚目の常幸龍(26=木瀬)が、愛息の誕生日にうれしい初金星を挙げた。全勝の横綱日馬富士(30)を逆転の突き落としで破った。右膝痛をこらえて強行出場し、1歳になった長男心絆(しんば)くんに殊勲星をプレゼント。元学生横綱で日大時代は遠藤の2年先輩だったエリートが、存在感を示した。

 愛する息子のため、常幸龍が執念を見せた。日馬富士の厳しいのど輪攻めに後退したが、痛い右足で踏ん張った。相手をかわそうと左に回り込み、突き落とした。「横綱に勝つことを夢見ていた。内容はどうあれ勝てて良かった」。劇的逆転劇で初金星をつかんだ。

 「もう必死でした。今日は誰が相手でも勝ちたかった」。5日目、日大の2年後輩の遠藤戦で右膝を負傷。6日目朝に精密検査も受け、この日も痛み止めの注射を打った。「休もうかと思った」。だが、強行出場したい大きな理由があった。

 ちょうど1年前だった。取組後、真美夫人(28)から携帯に電話があった。「助けて~」。陣痛が始まった叫び声。急いで病院に駆け付け、午後5時21分、待望の第1子誕生を見届けた。2980グラムの元気な男子。夫婦でつけたかった文字を合わせて「心絆(しんば)」と名付けた。この日は11キロまで成長した愛息の誕生日。愛妻からは「遠藤に負けてへこんでんじゃないわよ。横綱に勝て」とゲキも飛ばされていた。痛みをこらえ、父の強さを示した常幸龍は「いいプレゼントになった」と目を細めた。

 日大2年で学生横綱に輝いたエリート。卒業を優先し幕下付け出し資格を失ったが、序ノ口デビューから史上1位の27連勝を飾った。遠藤より先に注目を集めていた男は、子供ができて人生観が変わった。「ミルク代を稼ぐために、もっと番付を上げようと思った」。おむつ交換と、風呂入れは場所中でも父の役目。「気が和むし気分転換にもなる」。もちろん、愛妻の負担を減らす目的もあった。

 4人の幕内力士を育てた師匠の木瀬親方(元前頭肥後ノ海)にも弟子として初の金星を届けた。人気は遠藤に先を越されてきたが、勝負はこれから。「これで少しでも名前を覚えてくれれば」。家族の力を支えにつかんだ金星を、出世への弾みにする。【木村有三】<常幸龍

 貴之(じょうこうりゅう・たかゆき)アラカルト>

 ◆本名

 佐久間貴之。1988年(昭63)8月7日、東京都北区生まれ。埼玉栄高-日大。187センチ、156キロ。血液型AB。

 ◆相撲

 兄亮太さんに続き小2から開始。高2で国体個人など全国優勝し日大2年時に学生横綱。11年春場所で初土俵の予定が中止になり、5月技量審査場所で「佐久間山」で初土俵。

 ◆スピード出世

 幕下付け出し資格がなかったが、元小結板井の26連勝を抜き前相撲から史上最多27連勝を記録。12年九州場所で、琴欧洲の所要11場所を抜く史上最速9場所で新入幕。

 ◆家族

 日大2年時に父幸一さんが急逝。母厚子さんは北区で居酒屋「さくま」を営む。13年8月7日に真美夫人と結婚。「自分の誕生日なら祝ってもらえて、祝ってあげられる」。

 ◆プロレス好き

 小3から新日本プロレスが好きで、1月4日の東京ドーム大会はお年玉で観戦。好きなレスラーは武藤敬司、高田延彦、オカダ・カズチカ。