78年ぶりの「前年優勝校VS一昨年優勝校」の対戦は、浦和学院(埼玉)が、右目の失明危機から復活した江口奨理投手(3年)の延長11回完封で、龍谷大平安(京都)を破った。

 1年前は見えなかった右目を見開き、心を決めた。2回1死満塁のピンチ。浦和学院・江口が龍谷大平安・城島の内角へ131キロの直球を投げ込んだ。二塁ゴロで併殺打に打ち取る。「最後は気持ちで向かって行きました」。最大のピンチを脱すると、7回以降は無安打投球。新球カットボールを散らし、延長11回を無失点で投げ抜いた。

 お立ち台に立つと、万感の思いが込み上げた。「こうして甲子園で野球ができることが、当たり前じゃない。投げられていることが奇跡です」。

 右目の視界が突然閉ざされたのは、一昨年の9月のことだった。母奈美さん(37)と病院を3~4カ所回ったが原因不明のまま。神社で神頼みにすがる日々を過ごした。「ずっと手伝いで、野球はできませんでした」。ジャージー姿で草むしり、掃除を続けた。野球部寮から逃げ出そうと思ったこともあった。

 ギリギリで思いとどまると、昨年6月の朝、突然右目が見えるようになった。7月に投球練習を再開。昨秋の県大会で公式戦登板を果たし、甲子園のマウンドにたどり着いた。

 試合前、森士監督(50)から「1年間、失明状態の中で、今野球ができる喜びを感じなさい」と送り出された。13年春の日本一左腕、小島和哉投手(現早大)は、いつも一緒に練習してくれた。病院の先生や仲間、家族の支えがあった。

 大舞台で昨春王者を下す完封劇に、「今まで支えてくれた人に恩返しがしたい」と繰り返した。航空自衛隊で働く父文彦さん(47)にあこがれ、将来は自衛官になる夢を持つ。感謝の思いを胸に、まだまだ強く腕を振る。【前田祐輔】

 ◆延長戦完封 浦和学院・江口が11回完封。延長戦での完封勝ちは75年の金属バット採用後8人目。