21世紀枠で初出場の不来方(こずかた、岩手)が静岡に3-12と打ち込まれ、初戦で敗退した。初回にエース兼4番打者の小比類巻圭汰主将(3年)の中越え二塁打で先制したが、その裏に自身のバント処理のミスから5点を失うなど16安打12失点。練習時間の9割以上を割いてきた打撃では9安打で3点を奪い、選手10人で意地は見せた。4月からは新入部員の加入が見込まれ、10人で行う試合は今回が最後。新生・不来方で、夏の聖地に舞い戻る。

 甲子園は温かかった。選手10人で戦った不来方ナインが見せた必死の1プレーに、スタンドからは敵味方関係なく拍手がわき起こった。聖地での2時間2分、全力でプレーした小比類巻は「甲子園は特別な場所。みんなから声をかけてもらえた。全員野球をしっかり貫けた」と語った。小山健人監督(30)も「今日は見栄を張らず楽しくやろうと言ってきた。硬くならずにやってくれた。自分も鳥肌が立ちっぱなしでした」と振り返った。

 調子が万全ではない中、小比類巻が165球を投げきった。2月末の愛知合宿後、右肘に違和感を覚え、3月の練習試合では4戦で11イニングしか投げなかった。迎えた本番では最速136キロの直球が、この日は129キロ止まり。試合後には「秋から連投でやってきて、右肘に負担があった」と明かし「もっとできたと思う。悔しい思いしかない」と唇をかんだ。

 9点差はつけられたが、自慢の打撃で意地は見せた。初回2死一塁。小比類巻は外角高めの131キロ直球を強振し、中堅フェンス直撃の適時二塁打で先制した。「真っすぐに張ってた。センターフライかと思ったけど、神風が吹いた」。その後も静岡相手に9安打を浴びせ3点をもぎとった。小比類巻は「やってきたことは出せた。次につながる」と自信を見せた。

 選手10人で必死に戦った姿は2万2000人の観衆に届いていた。試合を終え、三塁側から不来方ナインが帰るときに観客から「夏にまた見たい」と声援が飛んだ。小比類巻は自信を見せた。「出場チームの中で10人は自分たちだけ。部員が少ない高校の代表として選んでもらった誇りはある。少しでも期待に応えられた」。4月には新入部員が加入予定で、新生・不来方で夏に戻ってくる。「もう1回ここでやりたいと強く思った」と短い言葉に力を込めた小比類巻の目は、本気だった。【高橋洋平】