昨季2度目のMVPに輝いたエンゼルスのマイク・トラウト外野手をめぐり、メジャーでほとんど知られていない、ある事実が話題になった。エンゼルスが本拠地を置くカリフォルニア州の労働法2855条によると、州内で結ばれる雇用契約は、最長で7年までという制約があるという。つまり、同一雇用主と8年以上の契約を結んでいても、7年が終了した時点で契約を解除することが可能となる。プロスポーツ選手については例外を設ける案も出されていたそうだが実現しておらず、州内の球団と契約している選手にもこの法律が適用されるようだ。

 09年ドラフト1巡目指名でエンゼルスに入団したトラウトは、11年に初昇格を果たし今季がメジャー7年目だが、14年に契約延長を結んでいるため20年まで契約が続く。だがカリフォルニア州のこの法律を適用すれば、今季限りでFAとなることができるのではないかと米メディアが指摘し、トラウトが今FAになれば争奪戦で大変なことになると騒ぎになった。

 カリフォルニア州といえばドジャースも本拠地を置いており、所属する前田健太投手は15年オフに8年契約を結んでいる。現在の契約では23年のシーズン後までFAになれないが、州法を適用すればそれよりも1年早くFAになることが可能となる。

 もっとも、カリフォルニア州に事務所を構え弁護士資格も持つ大物代理人スコット・ボラス氏は、この法律によって早くFA権を取得する可能性には否定的だ。米メディアのインタビューで同氏は「MLBの労使協定に対し、州法を振りかざして法廷で争うのはリスキーだ。この法律は、労働組合に所属していない人々が自分たちの権利を守るためにあるもの。MLBで適用しようとしても、無駄だと思う」と意見。「もし争うとしたら連邦裁判所になるだろうし、最高裁までいって争うことになるだろう。裁判で決着をつけるのに4年はかかると考えた方がいい。脂の乗った時期の選手が、訴訟で4年も煩わされることになれば、プレーにも影響する」と理由を述べている。敏腕代理人として知られ、どんな手段を使ってでも有利な契約を勝ち取ってきたボラス氏がこのように消極的であるということは、州法を利用しようという代理人が出てくることはまずなさそう。米スポーツメディアでは盛り上がった話題だったが、机上の空論だったようだ。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)