メジャーのFA市場が、キャンプインを目前にしても停滞したまま、100人以上の選手が未契約という異常事態が続いている。選手側は危機感を募らせ、憤慨する者もいる。怒りの矛先はもちろん、FA選手に資金を投じようとしない経営側だ。

 しかしこのような状況になることは、実は2年以上前に懸念されていた。16年12月に施行された現在の労使協定は、球団が国外FA選手を獲得するときの契約金に厳しい上限を設けたのだが、これが事実上の「サラリーキャップ」となり、いずれ選手全体へ負の影響をもたらすと予想する声が上がっていた。

 選手会のトップであるトニー・クラーク専務理事は当時「これはサラリーキャップとは違う」と否定していた。選手会は世界ドラフトの導入を阻止したのだからむしろ選手側の勝利だと胸を張り、「国外FA選手の契約金に厳しい上限を設ければ、そちらに流れていたお金が国内の選手に回る」という思惑まで口にしていた。

 国外FAの契約金に厳格な上限を設定した結果、中南米や日本などから米国へ渡る選手の契約金は大きく下がった。新労使協定が施行される前の15年、レッドソックスがキューバ出身の若手有望株ヨアン・モンカダ内野手を獲得したのが海外FA契約の史上最高額で3150万ドル(約34億7000万円)だったが、新ルールでは契約金が最高でも500万ドル(約5億5000万円)前後にしかならない。

 金額の落差という点で、新協定の影響を最も受けたのはポスティングシステムでエンゼルスに入団した大谷翔平投手だった。以前の協定下なら契約金が総額2億ドル(約220億円)を超えることは確実といわれたが、新協定施行後だったために契約金231万5000ドル(約2億5500万円)のマイナー契約になった。大谷ほど注目される選手が100分の1も割安で契約したことは衝撃的であり、FAの市場心理にもインパクトを与えたといわれている。

 こうして国外FA選手へ回るお金は激減したが、その分が選手会の思惑通り、米国内の選手に回るような状況にはなっていない。選手や代理人の多くは、このFA市場停滞を経営側の責任として責めるばかりだが、中には自己責任を指摘する選手も出ている。アスレチックスのブランドン・モス外野手はMLBネットワークの番組で「選手側も、自分たちが作った制度に責任を持たなければならない。これは、我々自身の失敗の結果でもある」と話していた。今オフのFA市場停滞には多くの要因がからんではいるものの、選手会からモスのような発言がもっと出てきてもいいのではないだろうか。