「108」。

 この数字は、仏教の世界では、除夜の鐘と同様に煩悩の数と言われますが、野球界で何らかの深い意味があるのでしょうか。

 メジャーのワールドシリーズ(WS)が「カブス-インディアンス」の顔合わせで、25日(日本時間26日)からスタートします。インディアンスにとっては1948年以来、カブスにとっては1908年以来の世界一をかけた、「古豪」同士の戦いとなりました。

 ひとくちに数十年ぶりと言っても、正直なところ、ピンとは来ませんが、その歳月は途方もなく長いものです。特に、カブスの場合、最後にWSに進出したのは、太平洋戦争が終結した1945年でした。2勝1敗とリードして迎えた第4戦。熱狂的なファンが、ペットのやぎ「マーフィー」と一緒にリグリーフィールドを訪れたところ、入場を拒否され、やむなく断念。そこから3連敗で敗退し、それ以降、WSに手が届かなかったこともあり、「ヤギの呪い」「マーフィーの呪い」の逸話が、広く知られるようになりました。もっとも、今季は公式戦でメジャー最多の103勝を挙げるなど圧倒的な実力で、71年ぶりにナ・リーグを制覇。ひとまず「呪い」を解いて、世界一への挑戦権を得たわけです。

 前回、カブスが世界一となった1908年は日本の元号でいえば明治41年。メジャーでは、「球聖」タイ・カッブ(タイガース)が打率、打点の2冠を獲得し、第1回日米野球が開催された年でした。この年、野球ルールが改正され、犠牲フライが得点として認められるようになるなど、野球界としてはまさに「黎明(れいめい)期」。今現在、108歳を超えて存命している方でも、カブスの優勝は記憶に残っていないのではないでしょうか。

 昨季からカブスを指揮する知将マドン監督は、過去の経緯を踏まえたうえで、口調を強めて言いました。

 「我々は、過去に何が起こったか、何が起こらなかったのか、その歴史には心から敬意を払っている。ただ、彼らは若い。それぞれの瞬間を誠実に過ごしてほしいと期待している」。

 -というわけで、まったくをもって、完全なこじつけですが…

 現在、日米とも公式球の縫い目は、「108」で定着しています。その縫い目が、それまでの「116」から「108」に制定されたのは、これまた偶然にも、インディアンスが最後に優勝した68年前の1948年でした。

 今回のWSでカブスが世界一になれば、実に「108」年ぶりということになります。1球のボールの縫い目がひと回りするほど、長く待ち焦がれたカブスファンにとって、「108」年の年月は、シャレっ気あふれる、野球の神様のイタズラなのかもしれません。

【四竈衛】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「メジャー徒然日記」)