マエケンが、投打に衝撃的なメジャーデビューを飾った。広島からドジャースに移籍した前田健太投手(27)がパドレス戦に初先発し、6回5安打無失点に抑えて初勝利を挙げた。打っては、4回に左翼席へド軍の今季第1号となる本塁打を放つ「二刀流」の活躍を見せた。ド軍の投手がデビュー戦で本塁打を打つのは1947年バンクヘッド以来69年ぶり。記録と記憶に刻まれた最高のスタートを切った。

 「名刺代わり」としては、あまりにインパクトの強いデビュー戦だった。日本で鍛え、培った野球選手としての高い技術と優れた資質を、前田は余すことなく発揮した。初勝利に初本塁打。敵地とはいえ、さながら前田のために用意されたお披露目会のようだった。「僕にとって最高の1日。忘れられない1日になると思います」。試合後、緊急会見場が設置されるほど、日米両メディアの注目を独占した。

 長年、憧れ続けたマウンド。強心臓で知られる前田も、試合前は緊張感に包まれていた。しかも、ド軍投手陣は開幕から2試合連続無失点。「プレッシャーはありました」。流れを止めるわけにいかず、責任も感じた。ところが、ド軍打線が初回に4点を先取。「攻撃前はすごく緊張したんですが、ほとんどなくなっていました」。初回の3者凡退で本来の快テンポに乗った。4、6回のピンチを脱するとガッツポーズ。「気持ちも高ぶって、興奮もしてました」。投手としての本能が、回を重ねるたびに研ぎ澄まされていった。

 投げるだけではない。4回表の第2打席。カウント0-2と追い込まれながら、甘く入った132キロのスライダーをコンパクトなスイングで左翼席へ運んだ。これが16年のド軍第1号。「僕もビックリでした」。ベンチへ戻ると、新人への儀式として「無視」を決め込む同僚に対し、両手を広げて祝福を催促。即座にもみくちゃにされ、快勝ムードに拍車がかかった。日本ハム大谷のように本格的な「二刀流」を目指しているわけではない。だが、少年時代、水泳で鍛えた柔らかい筋力と運動神経が、「投」だけでなく「攻守」の根幹となっている。

 文句なしのデビュー戦を飾った一方で、ここまでの道のりを振り返り万感の思いがよぎった。2年前のオフは、「気運」が高まらずポスティングシステムを利用してのメジャー挑戦は見送られた。今オフのドジャースとの契約の際も、身体検査で異常が見つかり、年俸300万ドル(約3億6000万円)と抑えられた。「いろんな方に感謝の気持ちをこめて今日のマウンドに上がれたと思います。いろいろ悔しい思いもしました。うまくいかないこともあった。でも今日、この場に立てて報われたと思います」。広島球団、背中を押してくれたファンの声援を忘れていない。最高の1日を振り返りながら、少しだけ感慨に浸った。【四竈衛】