球団初のワールドシリーズで惜しくも世界一を逃したレイズ岩村明憲内野手(29)が激闘から一夜明けた10月30日(日本時間31日)、夢舞台を振り返った。フロリダ州セントピーターズバーグの本拠地トロピカーナフィールドのクラブハウスで荷物整理を終えた後、起伏に富んだ今シーズンを話し始めた。

 明け方近くにフロリダの自宅に戻り昼前に目を覚ますとまず、地元紙を手にした。真っ先にスポーツページを開くと視線を下に落とす僕らの姿が載っていた。その写真を見れば誰もが落ち込んでいると思うのは当然。でも、ここまでの戦いに落ち込んだことなど1度もなかった。前夜はほんの一瞬うつむいたところを撮られたのだろう。けれど、その写真をじっと見ていると「あ、すべてが終わったんだな」と思えてきた。

 振り返ると6回表終了後に雨天サスペンデッドとなった第5戦、許されるのなら悪天候でも試合を続けたかったというのが本音だった。今季のレイズは窮地に追い込まれたら追い込まれた分だけの強さを発揮できるたくましさを身に付けていたからだ。あの日、相手投手はエースのハメルズで僕らは王手をかけられていた。この状況に悪天候が重なったのだから厳しさは絵に描いたようなもの。そこに、まったく打てていなかった中軸のペーニャとロンゴリアにヒットが出て、これまでにはなかった特別な空気が生まれたのを感じ取った。みんなの闘志に火が付いていたのに…。

 このシリーズではベンチを温め続けた田口さんの姿を何度も反対側から目にしたが、出られなくても腐らずにただひたすらにチームのために準備をし続ける姿勢には心打たれた。勝負では負けた人間の気持ちを分かることが次の目標に向かわせる糧にもなると、それらしきことを試合後の取材で僕は話している。田口さんは今回2度目の世界一を経験され、試合に出ない人間の気持ちまで分かるすごさがある。これを思うと、選手という前に人としての重みに尊敬の気持ちが生まれてくる。

 マニエル監督と田口さんの間には絶対的な信頼関係があったからこそ短期決戦の重要な戦いにそばに置き続けたのだろうと容易に想像はつく。だから出なくても田口さんとこのシリーズで再会したことは、僕にとってとても意味のあるものになった。

 縁あって入団したレイズ。07年の1年目は首位と30ゲーム差を付けられて地区最下位だった。同じメジャーのユニホームを着ていても正直、心のどこかで相手に見下されているのでは、という気持ちを抱きながらプレーしたことも多くあった。でも、僕らはジョー・マドン監督の目指す野球をただただ信じてチームとしての戦いを学び続けた。ワールドシリーズでは敗れたが、もう周りの目線は今までとは絶対に違う。この1年間の一番の仕事はそこにあったと今、思っている。

 「これで終わりじゃない。これが始まりなんだ」

 最後の戦いを終えた僕らに監督が贈ってくれた言葉だ。レイズに下を向く仲間はもういない。前を見続けた僕のメジャー2年目が終わった。【企画・構成=木崎英夫通信員】