<2003年9月22日付日刊スポーツ>

 【オークランド(米カリフォルニア州)20日(日本時間21日)=四竈衛】マリナーズ・イチロー外野手(29)が、56年ぶり史上3人目の新人から3シーズン連続の200安打を達成した。あと「2本」と迫って迎えた首位アスレチックス戦で、自己タイとなる4安打、自己新の5打点をマーク。「言葉にならないほどうれしい」と赤裸々な胸中を漏らした。試合もイチローの今季200安打目となる逆転の2点適時打など、先発全員の17安打で快勝。ア軍とのゲーム差を「3」まで縮め、プレーオフ進出に望みを残した。

 もがき、苦しんだ末の達成感は、何物にも代え難かった。「ボクにとっては最高の目標。言葉にできないぐらい、うれしいです。シアトルにいる(夫人の)弓子、(愛犬)一弓に早くこの気持ちを伝えたい」。試合後、イチローは感無量の心境を口にした。メジャー史上3人目となる新人から3季連続の200安打。毎年、シーズン前に第1の目標として「200安打」を挙げてきたイチローにとって、3年間継続できた充足感は格別だった。

 「200という数字は頭に置いてきましたが、それがいかにタフなことか今回よく分かったし、簡単に口にできないということを強く感じました。いかに難しいことかが分かりました」。周囲からすれば「当然」と思われてしまう到達するまでの道のりも、本人にすれば険しいものだった。

 完調に近い状態で臨んだ今キャンプ。空振りを恐れず、強く、鋭いスイングで飛距離の出る打球を目指す打法は、ほぼ完成に近づいていた。だが、実戦ですべてイメージ通りに運ぶはずもない。柔軟なバット操作はプラスに働くこともあれば、悪球打ちのマイナス面も生んだ。スイングが速くなったことで過去2年、カットしてファウルしていた球が、フェアゾーンに転がり、凡打になるケースも多かった。

 当たりが悪くても安打になった過去2年と、当たりが良くても凡打になった今季。「天才」イチローが、消化できないジレンマにぶつかった。過去2年との困難さを聞かれて、イチローは即答した。「まったく違います」。さらに「迷路」に入り込んだかのような心境を補足した。

 イチロー

 結果が出ない時、その原因が分からない時には不安になります。実際に(200安打が)近づいてくるにつれて。当然、早く成し遂げたいという気持ちがわいてくる。それを抑えることは今のボクには不可能。メンタル面がどれだけ肉体に影響するかを、すごく感じました。こういう苦しみはプロになってからはないです。高校時代、(交通事故で)ボールを投げられなくなって以来ですね。

 この日の第1打席はハーフスイングの空振り三振。そこから200本安打を含む、4安打5打点の結果を残した。反発心、逆境での強さは、やはり凡人ではない。残り7試合、宿敵ア軍とは4試合。肩にかかる重圧の重さは、イチローの刺激にすぎない。

 ◆最多はローズ

 シーズン200安打を最も多く達成したのは、4256安打の最多記録を持つピート・ローズで、10度。昨年までに32選手が4度以上マークしている。1900年以降の連続200安打記録では、ウェイド・ボッグスの7年連続(83~89年)が最長。

 ◆史上2位へあと4安打

 メジャーの新人3年間の通算安打ランクでは、イチローは652安打で3位。歴代2位のジョー・ジャクソンにあと4安打と迫っている。歴代最多はロイド・ウェイナーが27~29年にマークした678安打。

 ◆最近3年でダントツ

 イチローの最近3年間の安打数652は、ダントツの1位。ほかの打者はだれも600安打に届いていない。また、最近3年間で200安打を複数回記録したのも、イチローだけ(20日現在)。今季はウェルズ(ブルージェイズ、208)とプホルス(カージナルス、207)も200安打を達成した。

 ◆3季連続200安打、100得点、30盗塁以上

 新人の枠を超えても3季連続で同部門の同時達成は、長い大リーグの歴史でもタイ・カッブ、ジョージ・シスラーくらいしかいない。

 ◆日本では

 イチローは初の首位打者に輝いた94年、当時のシーズン最多安打記録だった50年藤村富美男(阪神)の191安打を更新する210安打をマークした。日本では大リーグに比べて試合数が少ないこともあり、年間200安打突破はこの1度だけ。(2003年9月22日付日刊スポーツ紙面から)