<2007年9月5日付日刊スポーツ>

 【ニューヨーク(米ニューヨーク州)3日(日本時間4日)=木崎英夫通信員】イチローがクレメンスからの1発で決めた。マリナーズのイチロー外野手(33)がヤンキース戦で歴代3人目となる7年連続の200安打を達成した。ヤ軍先発のロジャー・クレメンス投手から1回の第1打席で右前打してあと1本とし、3回の第2打席で右中間へ6号ソロ本塁打を放って大台に到達した。メジャー1年目からの7年連続200安打は史上初で、チームの連敗を9で止める勝ち越しアーチにもなった。

 イチローは一振りで決めた。先頭で迎えた3回表の第2打席だった。歴代8位の354勝を誇るクレメンスが投じたカウント0-2からの3球目。143キロの真ん中やや外寄りの速球を振り抜いた。フェンス前で追うのあきらめたアブレイユ右翼手の上を低い弾道の打球が越えていった。

 6月4日以来、341打数を費やした今季6号の1発で200安打の大台に乗せた。「しばらく出ていないホームランがここで出るのは何かあるよね。ちょっといい感じだなと思っちゃって『よー、いい感じ。いい感じ』って思いながら走ってました」。ボッグス、キーラーと肩を並べる7年連続200安打を〝聖地〟ヤンキースタジアムで達成した。「(クレメンスは)投げているボールが(好調時と)全然違うけどビッグネームだから…。いい記念になりますよ」。歴代最多7度のサイ・ヤング賞受賞投手を見下ろしていた。

 毎年カウントダウンに入る前の180本前後で重圧に苦しんできた。それが今回は違う感覚を得た。「去年は170から190の間で苦しんだんですけど、そこをちょっと超えたいなと思っていた。そこを強く意識してプレーをして超えて来ていたので、その後はスムーズに行くなと思っていた。それを超えたことの方がうれしいかな、今回は」。ベンチで真横に座る城島も違いに気付いていた。「200本に近づくと苦しさっていうのが確かにイチローさんはあったんでしょうけど、今年は去年よりは見えなかったですね。今年は185本ぐらいからグッと来たんで」。

 新たな取り組みを奏功させたのは、精神面の強化ではない。昨年来続けてきたが合わないために今季途中から軌道修正に取り組んだ技術模索だった。「(技術的なもの)と思いますね。これまでとは違うでしょうね。少なくとも去年とは違うし、プラスというよりはマイナスがゼロになった感じですね」。マイナスがゼロになったことで技術向上の余白も生まれようとしている。「(向上の)可能性という言葉を使うなら、あるでしょうね」。

 マ軍は過去3年、この時期には戦線から早々に離脱。今季はここへ来て急降下も連敗を「9」で止め、ワイルドカード争いでトップのヤ軍に1ゲーム差に迫った。狭いクラブハウスの片隅で、記者に囲まれたイチローは語気を強めた。「今までとは違った状況が現にあったわけですから。そこで同じように数字を残すということっていうのはMUST(必須)ですね、僕の中では」。200安打を放った直後の4回、外角寄りの直球を左前へはじき返して201安打をマークした。イチローは止まらない。

 ◆イチローの天敵クレメンス

 クレメンスがアストロズに所属した04年以来の対戦。この試合前まで20打数2安打1打点、4四球2三振と封じ込まれていた。対戦率1割は20打席以上の対戦歴がある63投手の中で最も低かったが、この日は3打数3安打2打点と雪辱。クレメンスから日本人選手初の本塁打を放った。

 イチローが「世界一」になるのは40歳?

 3日でイチローの日米通算安打数は2833本(日本1278+米国1555)となった。2043試合(日本951+米国1092)で達成した記録で、1試合平均1・387本。このペースで打ち続けるとすると、ピート・ローズの持つ大リーグ最多記録4256安打まで1029試合を要することになる。イチローが年間160試合に出場すると仮定した場合、14年5月に到達する数字だ。このときイチローは40歳7カ月になっている。

 大リーグだけの成績で計算すると、1試合に1・424安打。このペース換算なら、ローズの記録には1000試合ちょうどで到達するため、達成は1カ月ほど早まる。ちなみにメジャー2000安打は35歳の09年8月、3000安打は14年5月と予想される。

 日本プロ野球界の記録に当てはめると、現時点で張本の3085本、野村の2901本に続く歴代3位。これも計算上では来季中に2人を抜き去り、日本人NO・1の称号を手にすることになる。

 イチロー一問一答

 -公式戦が26試合残っていても、200安打はホッとするものか。

 イチロー

 それがあまりホッとしない。190本目にきたときは、すごくホッとしましたが…。

 -7年連続200安打でボッグスと並んだ

 イチロー

 名前しか知らない。(実際のプレーを)見ていないから、軽いことは言えないですね。

 -例年以上に過酷な日程の中での達成は、つらい時期もあったのでは。

 イチロー

 つらいことは人に話したくない。そういえば、つらいことがあったように思われるかもしれないが、実際にはなかったですね。

 -プレーオフ争いの中で達成した意味は

 イチロー

 9連敗だったから雰囲気は最悪。でも、どんな状況でも個人の仕事はやらないと、と僕は常に考えている。

 -故障の少なさが7年連続につながった

 イチロー

 (多少の)けがはしてますよ。ただ、使う側にとってリスクのない選手ではいたいと思う。

 -技術的にさらに進む可能性は

 イチロー

 可能性はある。可能性という言葉を使うなら。(2007年9月5日付日刊スポーツ紙面から)