<米独立リーグ:チコ8-6ティファナ>◇29日(日本時間30日)◇米カリフォルニア州チコ

 ナックル姫が米国で衝撃デビューした。米独立リーグ、ゴールデン・ベースボールリーグに所属するチコ吉田えり投手(18)が先発で初登板した。元メジャー3人を擁するティファナを相手に初回、併殺で無死一塁のピンチをしのぐとその裏、プロ初打席で右前適時打を放った。マウンドでは2、3回ともに、2死走者なしから悔しい失点をしたが、3回を5安打4失点と同点のまま救援陣につなぎ、勝利リレーの一員に名を連ねた。

 歴史的なマウンドを見守った地元大観衆が、吉田を後押しした。初回、ティファナの先頭打者が奇襲バント安打に成功すると、スタンドは大ブーイングで大人げない策を責めた。「すごい応援が力を与えてくれました」と続く2番から捕邪飛で初アウトを奪うと、3番には内角へのナックルで、注文通りの遊ゴロ併殺。「0点で抑えられたので安心しました」と、18歳少女の痛快劇が幕を開けた。

 最高の演出はその裏に待っていた。3点を先制してなお2死満塁。打席は「中学生以来」という9番の吉田が入った。大胆にもグリップエンドいっぱいに握り、1-1から推定130キロ後半のやや内寄りに入った直球を力いっぱいたたいた。「自分でも信じられなかった。でも、すごくうれしい」というプロ初スイングから放たれた打球は、一、二塁間をきれいに破り、テ軍先発リバスを初回だけで「KO」する適時打となった。

 ただ4点先制で守りに入った。2回は簡単に2死を奪い、3人目も2-1と追い込みながらナックルが抜けて死球。続く7番打者に直球を狙い打ちされ2ランを喫すると、3回も2死走者なしから、打順が一回りした2番から1四球を挟んで3連打を浴びた。投球では詰めの甘さに「満足いく腕の振りでナックルを投げられなかった」と悔しがり、自己採点は「20点」と満足できなかった。

 それでもテ軍は5番までにメジャー経験者が3人も並ぶ打線。テンプルトン監督は「高校を卒業したばかりの18歳なのに、いい度胸でよく投げた」と予定の3回を47球で務め上げたことに、今後の先発ローテーション入りを決めた。2月に吉田がプレーしたアリゾナ・ウインターリーグは選手から参加料を徴収しており、実態はプロではない。プロリーグで男子に交じり、日米でプレーしたのはこの日の吉田が史上初。注目度は全米級の中で「1週間前の方が緊張していた」と落ち着いたものだった。

 渡米から3週間、吉田は単身、チーム名「アウトローズ」(無法者たち)の男集団に飛び込んだ。通訳も専属スタッフもおらず、ときに米国人家族のホームステイ先からバスで練習場に通うたくましさをみせる。ウインターリーグとのレベル差を痛感し「緩急を付けるためにも、ストレートは120キロまで上げたい」と筋力トレーニングを始めた。また投球の幅を広げるため、新球スライダーにも取り組む。

 「去年は何もかも初めてで分からなかったけど、今は課題を見つけようとする気持ちが強くなりました」と日々、プロ意識に目覚めている。特注した真っ赤なグラブに刻んだ文字は「一生懸命」と「心」。「今日は課題になりましたが、今季はほとんどナックルで抑えたい」と最大の武器を磨くことも忘れなかった。【中島正好】