<マリナーズ0-2アスレチックス>◇28日(日本時間29日)◇セーフコフィールド

 【シアトル(米ワシントン州)=四竈衛、木崎英夫通信員】マリナーズ・イチロー外野手(37)のメジャー11年目は、184安打で終わった。今季最終戦となったアスレチックス戦で3打数無安打。過去最低の打率2割7分2厘で全日程を終えた。200本安打、打率3割、球宴出場など過去10年間連続していた記録が、いずれも途切れた。その要因の1つとして、打ってから一塁に到達するスピードが、全盛時よりも0・3秒遅くなっていた。記録の重圧から解放され「ホッとした」と話すイチローにとって、5年契約最終年となる来季は真価が問われる1年となる。

 重苦しさや落胆ぶりを、見せようとはしなかった。最終戦後のイチローは、ファンに手を上げながらダッグアウトから引き揚げた。「なぜか晴れやかです。続けることに追われることがなくなって、ちょっとホッとしています」。自己最多を更新する46試合目の無安打。それでも、この日だけはシーズンを終えた安堵(あんど)感が、ここまでの苦しさを上回った。

 だが、悔しくないはずもなかった。200本安打は10年で途切れた。「寂しく思うかと思ってましたが、動揺する感じもない。結構難しいんですよ、200本打つって」。ショックを感じさせない軽い口調に、本音を包み込んだ。

 今季の変調は、随所に見え隠れしていた。内野安打が減少した一方で、併殺打は過去最高の11本。40盗塁を記録し、脚力低下とは無関係のようだが、緩いゴロでアウトになるケースが増えたことも否定できない。

 同地区で対戦の多いレンジャーズのウィルソン投手は「打ってからのダッシュが遅くなった」と印象を口にする。実際、10年前は、球がバットに当たってから一塁まで最速3・6秒で到達したのが、今季は平均3・9秒。メジャーでは4秒以内で速いとされるが、時間にして0・3秒、距離にして約2メートルの差は決して小さくはない。打球速度、状況によって「全力疾走度」は異なるが、一昨年8月に左ふくらはぎを痛めて以来、イチローの減速傾向は増した。

 しかも、今季は5月以降に打席での「立ち遅れ」が目立つ時期が続いたことで、重心移動を早めにする傾向も見られた。その影響からかタイミングを崩された際、振り切った後の姿勢に乱れが生じ、一塁へのスタートが遅れる悪循環につながった。また、オリックス時代からイチローを見てきたア・リーグのスカウトは「打球に対する1歩目が遅くなった」と、守備での変調をも指摘した。

 成績ダウンの原因は、おそらく1つではない。ただ、過去10年間、苦境を克服してきた対応力を、今季は発揮できずに終わった。今後、さらに年齢との闘いは避けて通れない。それでも、200本への意欲は隠そうとしない。「その可能性を生み出せる状態でありたいとは思います」。あくまでも小休止か、それともほころびなのか。届かなかった16本の重み、0・3秒の違い、2メートルの差は、だれよりもイチロー自身が痛感しているに違いない。