<マリナーズ5-3アスレチックス>◇15日(日本時間16日)◇セーフコフィールド

 マリナーズのイチロー外野手(38)がアスレチックス戦で今季初の決勝打を放った。追いつかれた直後の5回1死一、二塁で、右翼線への適時二塁打で二塁走者を迎え入れた。3番打者となった今季、ノーステップ打法から始まった打撃フォームは変化を続けるが、バッターボックスの最後部に立って強振するスタイルは変わらない。今季のイチローの打撃がハッキリと表れた決勝打だった。

 イチローが87マイル(約140キロ)のツーシームを強振した。5回裏1死一、二塁。4-3とする勝ち越しの適時二塁打は、鋭いライナーで右翼線に飛び、ワンバウンドでフェンスまで達した。「まぁできているかどうかは僕が判断することではないと思うので、勝手にやってください」。今季11試合目、ここまで3番の打撃ができているかどうかを問われるとイチローは素っ気なく返した。

 3-3の同点に追い付かれた直後の絶好機。二塁に俊足の1番フィギンズを置き、アスレチックスの左翼はやや肩が弱いクリスプだった。カウント2ボール1ストライクからの4球目は、真ん中からやや外、高めの甘いボールだった。昨季までのイチローなら、巧みなバットコントロールで左方向に運ぶケースが多かった状況だが、この日はスイングの遠心力を利かせて引っ張った。「外に逃げていくツーシームを引っ張った意図はあったのか」と聞かれ、「あるけどお伝えすることはないです」と詳細を明かすことはなかった。だが、間違いなく3番イチローを象徴するような一打だった。

 キャンプ序盤ではスタンスを広く取り、右足の上げ幅と、右足の踏み込みを極力抑えた新しい打撃フォームで始動した。今は、その原形をとどめないぐらい変わった。外見上は、昨季とさほど変わらないフォームになった。だが、バッターボックスでの「立ち位置」は昨季とは大きく違い、かつ、キャンプ序盤からほとんど変わっていない。

 昨季まではベースの真横付近に立ち、投手方向に体重移動しながらボールを捉えた。今季は長距離砲のように軸足の左足をバッターボックス最後部(最も捕手寄り)の白線に乗せて構えている。昨季に比べて肩幅ぐらい(約60センチ)後ろで構える。それによってコンマ何秒かボールを長く見ることができる。軸足に体重が乗っている分、腰の回転に鋭さが生まれ、ボールを鋭くたたくことができる。これまでのようにチョコンとボールに当てて走りだすことは減った。振りきってから打席を出ていく。長打で走者をかえす3番のスタイルに変わっている。

 この日は黒人選手初の大リーガーのデビュー記念日ジャッキー・ロビンソン・デー。その功績をたたえ「42」の背番号でプレーした。3番の面白さを聞かれても「まだ分からない。あるのかどうかも分からない」と相変わらずだが、過去11年で8度もリーグ1位の打数を重ねた男が、その魅力を味わうのはこれからだ。【木崎英夫通信員】

 ▼イチローが今季初V打。打順3番で打点をマークしたのは大リーグ通算7度目(02年1度、04年2度、12年4度)。このうち勝利打点は04年6月20日パイレーツ戦の7回、2-2の同点から勝ち越しの二塁打を放って以来8年ぶり2度目となった。