オレがFAで巨人に移籍した94年、松井は確か入団2年目、20歳になるかならないかの時期だったと思う。とにかく体がデカいなという印象で、確かにパワーという点ではすごいものがあった。でも、野球をやるために必要な体力や技術は持っていなかったな。それは、練習を見ればすぐに分かった。オレは1時間だろうと2時間だろうと同じようにバットを振れたけど、あいつは15分もしたら形が崩れてしまっていた。プロとして一人前になるには、まだまだ時間がかかるだろうなと思っていた。

 体力も技術もプロのレベルに達していないのにもかかわらず、入団当時から1軍で試合に出られたのは、あの恵まれた体と、欠点を補って余りあるほどのパワーがあったからだと思う。だから、巨人で一緒にプレーした3年間、あいつを褒めたことはなかったんじゃないかな。それは本人が一番よく分かっていたはずで、プロの世界はそんなに甘くない、ということを肌で感じた時期だったのではないだろうか。

 でも、その後は着実に成長していったよな。年を取るにつれて、技術が伴ってきて打撃がうまくなっていったのは確かだと思うよ。一緒にプレーしていた時は、直接アドバイスを求めてくるようなことはなかったけど、オレら先輩たちの打撃を目で見て少しずつ学んでいったのだと思う。最初からパワーに頼らず、ちゃんとした技術を身につければ、もっと打っていたと思うけどな(笑い)。

 日本で10年間プレーして、そして大リーグで力を試したいと自ら希望して海外に行って10年がたった。今38歳か。引き際は本人が決めるものだから、周りがとやかく言うことではないが、ある意味、選手としてやれるだけのことは、すべてやり切ったということなんだろう。(日刊スポーツ評論家)