【ロサンゼルス(米カリフォルニア州)8日(日本時間9日)=四竃衛】マー君、無事を証明-。新ポスティングシステムを使ってメジャー移籍を目指す楽天田中将大投手(25)が、緊急渡米後、肩、肘の権威として知られる同市内の病院でメディカルチェック(身体検査)を受けた。米球界内には、田中の登板過多、球数オーバーに対して懸念する声が根強いこともあり、今回の米国訪問中に健康面での「お墨付き」をもらい、10球団以上ともいわれるメジャー球団との交渉を優位に進めたい考えのようだ。

 極秘渡米した田中の最大の目的は、体の隅々までチェックすることだった。同地に到着後、着替えなどを済ませると、過去に数々のメジャーリーガーが「トミー・ジョン手術」(肘の腱=けん=移植)などを行い、肩、肘の権威で知られるロサンゼルス市内の有名病院へ向かった。初日の検査が終わったのは、日が暮れた午後7時過ぎ。関係者らに付き添われ、正面玄関からではなく、病院の通用口から人目を避けるように迎えの車へ乗り込んだ。

 移籍先を決める前の段階で、最重要事項が身体検査だった。日本シリーズ第6戦で160球を投げ完投負けした翌日に、連投して胴上げ投手になった。それ以降、米球界内には、田中に対して肩や肘の故障を懸念する声が相次いだ。通常であれば、移籍先決定後に当該球団が指定する病院で検査を受けるパターンだが、今回は交渉期限の25日(米国時間24日)まで時間的な余裕は少ない。ただ、各球団に対し、事前に「異常なし」を証明しておけば、交渉で足元を見られる心配もなく、スムーズに折衝を進められる。代理人ケーシー・クロース氏(50)の意向もあったものとみられ、検査渡米が決まったようだ。

 その一方で、下交渉は着々と始まっている。今回は検査目的とあって、短期滞在の予定だが、メジャー関係者によると「複数の球団がロサンゼルスに集まるらしい」との情報もある。田中本人と接触するかは不明だが、あいさつ程度だけでもアプローチする球団はありそうだ。

 既に田中自身は、関東で本格的な自主トレを開始。できる限り、トレーニング時間を確保したい意向を漏らしており、米国に長く滞在する予定はないが、今回の渡米をキッカケに交渉は本格化する。譲渡金を除いても年俸総額1億ドル(約105億円)といわれる田中争奪戦。肩や肘など健康面で「異常なし」が証明されれば、空前のマネー合戦となる可能性が現実味を帯びてくる。

 ◆メディカルチェックとは

 契約前に行う身体検査。入団するにあたって肩や肘、筋肉など問題がないかをチェック。移籍先決定後に受診するのが一般的だが、11年に海外FA権を行使した岩隈(マリナーズ)が決定前に米国で検査した例も。

 ◆今季田中の「酷使」

 クライマックスシリーズのファイナルSでは10月17日の<1>戦で120球完封した後、中3日で<4>戦の9回に救援登板し、16球で胴上げ投手に。日本シリーズでは<2>戦に127球完投。中5日の<6>戦では160球で完投したが、翌日の<7>戦で9回に救援登板。15球で再び胴上げ投手となった。日本シリーズで完投翌日に登板したのは67年足立(阪急)以来46年ぶり。160球以上を投げて連投したのは初。3試合合計は302球で、1シリーズ300球以上は92年岡林(ヤクルト)石井丈(西武)以来21年ぶり。

 ◆田中に対する登板過多懸念の声

 連投した日本シリーズ第6、7戦で計175球を投げた田中に対し、11月3日付の米ニューヨーク・タイムズ電子版が「あるスカウトが彼の腕を心配していると言っていた」と報道。独占交渉権を得た球団が契約交渉前に、身体検査を求める可能性があるとも指摘。同15日には、FOXスポーツのローゼンサール記者が、メジャー球団が田中の故障リスクを心配していると伝えた。複数の球団幹部から「なぜ大金を支払い、大きな故障のリスクを負わなければならないのか」との意見が出たという。