哲学者カントは言いました。「哲学は学べない。学べるのは哲学することだけである」。悩みに悩んだ阪神藤浪晋太郎投手(21)が7試合ぶりの今季2勝目を挙げた。畠山のソロ1発だけの1失点で完投。白星には恵まれなかったが、これで両リーグトップの3完投目だ。誰が呼んだか完投王の力強い復活で、同率4位に浮上した。

 藤浪が白球を背負い、投げた。8回無死、92球目。1番山田から外角154キロで空振り三振を奪った。スピンがかかったボールはバットの数センチ上を通過した。

 「5回以降はいいバランスで余計な力みもなく投げられた。しっかり上からたたけた。投げるイメージを変えたのが良かった」

 今季初めて鶴岡とバッテリーを組み、9奪三振8安打1失点で7戦ぶり白星。分岐点は5回、先頭9番成瀬を直球のみで3球三振に仕留めた場面だという。

 「相手は投手。打たれてはいけないけど、修正するチャンス。キャッチャーの後ろまで突き抜けていくイメージにしたのが、いいリリースにつながった」

 5回以降の5イニングは無四球7奪三振で無失点。低めから伸びる-。追い求めた軌道がよみがえった。

 「あの、森への2球目は抜群に良かったな!」

 恩師が認めた1球がある。3月6日、西武とのオープン戦(甲子園)。大阪桐蔭で甲子園春夏連覇バッテリーを組んだ1学年下、森との対戦。左飛に仕留める打席で、153キロを空振りさせた初球に続き、真ん中低めにグンと伸びる157キロでまた空振りを奪った。

 3月18日、センバツ大会中の母校宿舎を訪ねた際、西谷監督と野球談議に花を咲かせた中で絶賛された。「あのボールをシーズンでも投げられたら、もっと勝てると思うんです」と返した。「低めに伸びてきて、質が良かったんです」。軌道に納得したのだという。

 「自分の中では体の近くを腕が巻きついてくる感じ。高校の時、やり投げじゃなく柔道の背負い投げのイメージで投げろ、とよく言われた。今もそのイメージ持っているんです」

 ボールを背負って上からたたく。フォームの理想型を体現できたからこの日、最速155キロの直球にはスピンが利いていた。クセの修正に取り組んだ結果、セットポジションの際は以前よりも10センチ程度高い位置にグラブを構えた。丁寧に先頭打者を斬り、テンポ良くストライクを先行した。

 「正直、苦しかった。悪くない投球でも勝ちがつかなかったり、負けたり…。長い期間だったので」

 シーズン初戦の3月29日中日戦で今季初星をあげた後、同一年では自己最長の6戦連続白星なしを経験。根気強くフォーム修正を続けた日々は必ず今後に生きるはずだ。過去3戦3敗だった神宮で初勝利をあげ、自身の敵地連敗も7でストップ。今季初の完投勝利には、手ごたえがビッシリ詰まっていた。【佐井陽介】

 ▼藤浪の完投勝利は、14年7月15日中日戦(1失点)、同9月12日広島戦(2失点)に続きプロ3度目。今季これまで完投は4月5日巨人戦(3失点)、5月2日巨人戦(1失点)と2度あったが、いずれも敗戦投手となっていた。今季の3完投は12球団でトップ。神宮ではプロ初登板初先発の13年3月31日ヤクルト戦をはじめ、過去3戦3敗。木曜日の登板も同じく3戦3敗だったが、苦手を克服した。