まさしく涙雨だった。広島前田健太投手(27)は8回6安打2失点の力投も、救援陣が炎上し5勝目を逃した。雨が降るなか、昨年8月15日巨人戦(マツダスタジアム)で3回6失点と失敗した試合の反省を生かした。被本塁打ゼロは開幕から連続82イニング目で止まったが、エースとして役割を全う。打たれた若手投手も責めることはしなかった。

 半袖を着た前田の腕に、雨粒が光った。試合開始直後に降り出した雨は、一時もやむことはなかった。5回の投球前にはマウンドに土が入れられ、色は茶色から黄土色に変わった。だが低下してもおかしくない集中力は、逆に高まっていた。110球を投げてなお立った8回は、今季82イニング目で初被弾を許すものの、最後は中島を三振に切って、ほえた。力投だった。

 「去年自分で失敗しているので、思い出しながら。心が乱れないように、気持ちを持って投げました。去年の失敗を生かせた」

 忘れもしない14年8月15日。マツダスタジアムでの巨人戦だった。激しい雨が降っていた。マウンドはぬかるみ、ボールは抜ける。繊細な感覚を持つ前田は、厳しすぎる環境に集中力を欠いていた。何度も顔をしかめ、淡々と投げる巨人内海とは対照的な投球。3回6失点と散々な結果に終わっていた。失敗は繰り返さない-。表情を変えず、淡々と腕を振った。

 7回には自らスクイズも決めた。必死だった。だが122球の力投も、9回に中崎、戸田が崩れて5勝目は消えていった。それどころかチームの連勝もストップ。前田は最後までベンチの最前列で、タオルにくるまって見つめていた。ロッカー室に消えることなく、長い守備が終わるとベンチから出て戸田を出迎えた。

 「2人とも厳しい場面だったし仕方ない。失敗しないと成長はない。これからいい場面で投げていく2人。悔しい気持ちを残りの試合にぶつけてくれれば、それはチームのためになる」

 消えた白星に恨み節はまったくない。それどころか、チームを、若手投手を思って言葉を紡いだ。自らがそうだったように、失敗から成長していけばいい。強いチームになるなら、自分の1勝など安いものなのだろう。紛れもないエースが、そこにいた。【池本泰尚】