熱男たちの執念がミラクルを起こした。ソフトバンクが2点を追う9回裏に、驚異の粘りを発揮した。川島慶三内野手(31)の忍者のような好走塁などで同点に追いつくと、最後は内川聖一外野手(32)の犠飛で今季6度目のサヨナラ勝ちを飾った。大きな勝利を手にして、4カード連続の勝ち越しを決めた。

 異様な盛り上がりの中で、内川はバットを握りしめた。執念で2点差を追いついた。1死満塁。ベンチから声が飛んだ。「キャプテン、任せたぞ!」。工藤公康監督(52)だ。松田が続く。「ワクワクして、行ってくださいよ」。ナインの思いを背に、主将は打席に向かった。

 「お前、代わってくれよ、と思った。また満塁。前に飛ばせば、どうにかなる」

 初球だ。西武高橋の直球に反応した。打球は右翼に舞い上がる。代走牧原がタッチアップで生還。内川は絶叫していた。「いろんな選手がつないでくれた。興奮して、誰がどうか覚えていない」。今季6度目のサヨナラ勝ちに、誰もが震えた。

 首位に立つ理由は選手層の厚さだけではない。勝利への執念、泥臭い野球ができるからだ。1点差に迫った直後の1死一、三塁。明石のボテボテ投ゴロに、三塁走者の川島がスタートを切った。炭谷のブロックに頭から突っ込んだ。身をかわしながら、左手でホームベースに触れた。「すごいキャッチャーだから、足から行ってもブロックされる。(ケガの)リスクをしょっても、点を取らないと」。忍者のような走塁だった。

 川島には苦い経験があった。4月25日の同カード。延長12回に同じような場面で正面から足で入り、炭谷のブロックに阻まれた。本塁憤死でサヨナラのチャンスを逃した。「あのプレーが頭から消えることはない」。リベンジの時は訪れた。工藤監督は絶賛した。「素晴らしい判断だ」。最終回に攻撃のバリエーションが増えることを考え、川島を代打の1番手に指名。その起用が見事に的中した。

 難攻不落の守護神を攻略しての逆転サヨナラ。交流戦明けから続く勝ち越しを4カードに伸ばした。「熱かった…。ミラクルが起きた」。指揮官の興奮は収まらなかった。ペナントレースを振り返れば、大きな意味を持つ勝利。歓喜の夜に、そんな予感が漂った。【田口真一郎】