キヨシ監督は、もうこの男の顔は見たくないかもしれない。阪神鳥谷敬内野手(34)が2回の先制2点打を含む3安打。24日の初戦から中1日、今季6度の猛打賞を決めた。DeNA戦は打率3割7分7厘と球団別でもトップのお得意さん。1番の快音から勝利への道が始まる。

 汗がにじみ出る。服がベタつく。湿気ムンムンの甲子園に、「カンッ」と爽やかな衝突音が響いた。鳥谷は涼しげな表情のまま、顔色を変えることなく一塁ベースに向かった。両チーム無得点の2回2死二、三塁。カウント2-2から山口の外角低めフォークに右手を伸ばした。巧みなバットコントロールで二塁左を抜く。先制の2点打で夏祭りムードを高めた。

 「チャンスだったんで、なんとか後ろにつなぎたいという気持ちでした。(追い込まれたので)強振せず、なんとか間を抜ければ、と思っていました」

 四球と安打で無死一、二塁としながら、送りバント失敗なども影響して2死までこぎつけられていた。虎党の不快指数が一気に高まったところで、清涼剤のようなタイムリーだ。1回は先頭で痛烈な中前打。4回2死一塁の場面でもしぶとく三遊間を抜いた。DeNAとのカード初戦から中1日での猛打賞で熱勝を演出。「夏男」がジワジワと上昇気流に乗ってきた。

 「う~ん…。暑さに負けて倒れたり、バテて練習を離脱した記憶はないな」

 埼玉の名門・聖望学園、全国各地から精鋭がそろう早大で、猛暑の猛練習を経験してきた。用意された練習メニューから目を背けたことはない。「周りには、心配になるぐらいぶっ倒れていたヤツもいたけどね」。シーズン中も季節に関係なく、ナイター日の午前中からウエートトレーニング、ランニングメニューを黙々とこなす。気温が上がれば上がるほど、努力の礎でもある体力がモノを言う。

 5日後には大好きな8月に入る。10年には球団記録の月間43安打を記録。昨季までを振り返っても、試合数が少ない3、10月を除けば唯一の3割超えとなる通算月間打率3割1厘を誇る月だ。試合後には「ランディ(メッセンジャー)の時は早い回に点を取れていなかったので、なんとか、という気持ちだった」と先発右腕を気遣い、クールな表情でクラブハウスに消えた。わき腹痛、死球による背中痛…。苦難の時期を乗り越え、さあ鳥谷の季節がやって来る。

 ▼鳥谷は今季6度目の猛打賞で、うち半数の3度がDeNA戦だ。通算122度の猛打賞中、DeNA戦での28度はカード別最多。これで後半戦6試合で打率4割1分7厘と、一気に調子を上げてきた。