西武のレジェンドは最後の日まで遺産を残した。試合前。43歳の西口文也投手は18歳の高橋光に「お願いします!」とキャッチボールをせがまれた。初体験にルーキーは「人生で一番緊張した」と暴投を繰り返した。

 芸術品だった。土肥投手コーチは「常人じゃできない技術の塊。力の伝達に無駄がなく、最大限にパワーが出る」と評した。野上は今年、意を決して宝刀スライダーを教わった。「握り方や切り方。すぐにできない」。軌道は鋭くなった。

 品格があり、優しかった。秋山は躍動感あふれる投球フォームのシルエットを忘れない。「Aクラス入りをかけた11年の最終戦の登板。外野から見ていても、オーラがあった」。栗山には若き日の思い出がある。「ウイニングボールを『ほら、誕生日だろう』ともらった。本当にうれしかった」。ぬくもりをもらった。

 西口は26日に誕生日を迎えた。後輩からのプレゼントを聞かれ「誰も覚えてませんよ」と笑った。本拠地最終戦、CS争いをかけた真剣勝負の場が贈り物だった。5回2死。「ピッチャー西口、背番号13」。井口に対し、フルカウントからの外角低めへの絶品のスライダー。182勝右腕の最後は際どい四球だった。

 「自分らしい終わり方。21年間、一生懸命にやった姿は見せられたけど、何を残せたのかな」。試合前に高橋光からスライダー伝授をお願いされた。セレモニー中に「後で教えてやるよ」と声を掛け、ロッカーで技術指導した。最後の瞬間まで西武一筋であり続け、弱肉強食の世界を生き抜いた風のような男は、ひょうひょうとした笑顔を残して去った。【広重竜太郎】