最後のアピールだ。楽天のドラフト1位、オコエ瑠偉外野手(18=関東第一)が巨人戦(東京ドーム)の8回2死二塁、巨人山口から左前適時打を放った。梨田監督が開幕1軍入りをかけた最終テストと位置付けた3連戦の初戦で、途中出場した直後の1打席目に結果を出した。オープン戦打率2割でも、得点圏に限れば打率7割5分。高校時代に活躍した地元東京での初試合で、3万6566人の大観衆を魅了した。

 得点圏打率7割5分の勝負強さで、敵地を大歓声のホームに変えた。8回、東京ドームに「オコエ」のアナウンスが流れると、左翼席だけでなく球場全体が声援に包まれた。梨田監督が「巨人の選手みたいだったね」と言うほどの“歓迎”ぶりだった。カウント3-1からのシュートを左前に運び、二塁から代走阿部が生還するとボルテージはさらに上がった。

 打席では集中していたオコエも、一塁ベースでは笑顔を見せた。「期待されているんだなと思いました」。それだけではない。マウンド上の山口とは縁があった。ジャイアンツジュニアに所属していた小学6年の09年12月。ジャイアンツ球場で練習があった時、たまたま居合わせた山口ら3選手が話をしてくれた。当時158センチの少年は184センチの左腕を「デカイ」と見上げ、圧倒されていた。

 その選手がマウンドに立っていた。「すごい投手。食らいついていこうと必死だった。その前に変化球を空振りしていたので、速い球から遅い球への対応を考えていた」。外角138キロをしっかり捉えた。「自信とは違う。打てれば向上心がわく。もっと打席に立ちたいと思うようになる。もちろん開幕1軍に入りたい。1軍のシーズンを経験したい」と、目標はまったく変わらない。

 梨田監督も手放しで褒めた。「よくやっているな、という感じ。キャンプ初日から見たら違う方向に来ている」とオコエに限らず、新人の健闘を想定外と喜んだ。池山打撃コーチも2月1日のことをよく覚えている。「監督は頭を抱えていたよ。それでコーチ会議で教えた方がいいだろうと」。2日から指導が始まったが「今とはフォームがまったく違う。突っ立っていたからね。でも教えたのは左脇だけ。考え方、見方、やり方は話したが、フォームは自分で考えていった」と驚きを隠さない。

 日々フォームが変わるのは悩んでいるからではない。オコエは壁に当たるごとに、自分で工夫を重ねてきた。「残るためには勉強しかない。キャンプ初日と比べたら成長の実感があります」。開幕1軍は残る2戦に持ち越されたが、成長力を認めた巨人ファンの大歓声だった。【矢後洋一】

 ▼オコエが8回に適時安打を放ち、オープン戦4打点目。オープン戦で4打点以上挙げた高卒新人は06年炭谷(西武)以来、10年ぶりだ。オコエのオープン戦の走者別成績を出すと

 走者なし【12打数無安打、打率0割0分0厘】

 走者一塁【4打数1安打、打率2割5分】

 得点圏【4打数3安打、打率7割5分】

 走者がいない場面ではまだ無安打も、得点圏では4打数3安打の打率7割5分。勝負強さを発揮し、オープン戦の打点は86年清原(西武)や93年松井(巨人)を上回っている。