1人で勝利の扉をこじ開けた。DeNA梶谷隆幸外野手(27)がヤクルト戦(横浜)の1回、三盗と本盗を立て続けに決め、チームに連勝をもたらした。相手先発は石川。2年前の盗塁王は観察眼と勇気をマッチさせ、老練な相手の上をいった。左脇腹痛から復帰し2日続けての殊勲で、借金を9に減らした。

 人間の目ではアウトだった。「セーフでは?」。梶谷は、先んじて右手が本塁に触れた自信があって少し笑った。ビデオ判定で覆り、視覚でのジャッジが困難な攻防を制した。失敗のリスクは?

 「考えない。三盗も紙一重。勇気だけ」

 心臓に毛が生えているだけでは、石川から1回に、単独で三塁と本塁は盗めない。14年に39個を稼いだ盗塁の技術が、これでもかと詰まっていた。

 大きな伏線は攻撃開始直後にあった。「1回けん制をした時『いけるな』と思った」。1回無死一塁。打者桑原の初球に入った緩いけん制球に着目した。「速いけん制はない」。洞察から得た確信を懐にしまった。自身の打席で石川が珍しく、通算7個目のボークを犯す。放った二ゴロの間に先制する。しかもビデオ判定で。バタついた立ち上がりの中で狙いを定めた。

 ロペスの安打で二塁に進んだ。まずは2球目。「自分はグリーンライト」。仕掛けた。ラミレス監督の「どこで走ろうが彼の判断。それだけの選手。序盤は積極的に」との深い信頼が後押しする。「いかに速く、強く滑るか」が盗塁の持論も、切った瞬間セーフのスタート。一、三塁のフルカウントでその時は来た。

 一塁はロペス。「フルカウントでけん制の確率は上がる。ロペスに速いけん制はない」。事前に得ていた情報を整理して裏打ちし、腹を決めた。左腕は背中越しの自分が見えない。案の定、探りの緩い球を投げた。「後ろから見ていたら分かる。けん制と思った瞬間にスタートした」。手から滑ることも決めていた。「ルールが変わった。追いタッチになる。手からいけば、セーフになる確率が高い」と、コリジョンルールを逆手に取った。

 1軍復帰2戦目で、こんな芸当ができる。心技体に理詰めの説明をした梶谷に「暴走」は使えない。DeNAを押し上げる千金の足だ。【宮下敬至】

 ◆本塁でのビデオ判定 今季から本塁打かどうかだけでなく、本塁でのクロスプレーにもビデオ判定を採用。判定が覆ったのは今回が2度目で、1度目は4月8日ロッテ-西武戦(QVCマリン)の1回。一塁走者のロッテ清田がデスパイネの二塁打で本塁突入し、1度はアウトと判定されたが、ビデオ判定でセーフに覆った。その際も衝突の有無ではなく、アウトかセーフかが確認対象だった。

 ▼梶谷が1回、自身初の本盗に成功。単独本盗成功は、今回と同じくけん制の間に決めた15年9月2日新井(広島)以来で、DeNAでは13年9月22日鶴岡がスクイズ空振りの間に生還して以来。本盗は多くが重盗で、単独は最近10年で6度目。スクイズ空振りのケースが多い。DeNAでは09年7月15日広島戦で三塁走者佐伯が本盗に成功したが、二塁走者の金城も三盗。重盗が記録された。