甲子園にストッパー球児が帰ってきた。阪神藤川球児投手(35)が今季初めて9回にマウンドに立った。3者凡退で1点を守り、日本球界4年ぶりのセーブを挙げた。下半身の違和感を訴える守護神マルコス・マテオ投手(32)や登板数が多いラファエル・ドリス投手(28)を試合メンバーから事実上外していた試合、「火の玉ストレート」がチームの窮地を救った。

 聖地が震えた。1点リードの9回。あの男が帰ってきた。藤川の登場曲、リンドバーグの「every little thing every precious thing」が流れた瞬間、地鳴りのような歓声が起こった。この日、いや、間違いなく今季一番の大声援だった。

 藤川 声援は聞こえました。後押しになりましたね。メンタルをしっかりもってやっているし、良くても悪くても全力でやっているんで。

 13球。すべてが「火の玉ストレート」だった。外角高め直球で空振り三振した先頭堂上の驚いた表情が、全てを物語る。続く亀沢を二ゴロに打ち取ると、最後は野本を中飛。貫禄の3人締め。スピードガン表示は最速148キロにとどまった。野本の初球は137キロの表示だった。だが、数字以上の伸びとキレがあった。金本監督も「今日は球児と石崎でしょう。球児の経験に懸けました。ストレートのキレは戻ってきている」と、惜しみない賛辞をおくった。経験がボールにプラスアルファの力を与えた。

 チームの窮地に、奮い立っていたのは間違いない。現守護神マテオが下半身の違和感を訴え、前日17日にストッパーを務めたドリスも登板過多気味で失点するなど不安定なのは否めない。この日はブルペン要員として名を連ねていたが、登板させないチーム方針だった。そこで白羽の矢が立ったのが、日米通算222セーブの藤川だった。昨年11月末の入団会見。クローザーとしてのこだわりを聞かれ「監督がやって欲しいことに応えるだけ。こうしろと言われたら全部従います」と話した。開幕から先発ローテ入りしたが、この日は臨時クローザー。猛虎のレジェンドともいえる男が、チームのために身を粉にして腕を振った。

 藤川 シーズンは長いんで。誰かが疲れた時にどこやってもいいように。みんなが疲れている時のために僕がいるんで。

 球児で接戦をものにし、チームは再び勝率を5割とした。試合後、香田投手コーチは「1つの選択肢として広がった」と、今後の状況次第では「守護神球児」を起用する可能性もにおわせた。12年9月15日巨人戦(東京ドーム)以来、1341日ぶりの握手に、甲子園が酔いしれた。222に、復活の1セーブが加わった瞬間、歴史の針が再び動きだした。【梶本長之】