背番号68の右足も、サヨナラ勝利のヒーローだ。9回2死。右前打の北條に送られた代走俊介外野手(28)が大当たりだ。守護神サファテに重圧をかけながら二塁盗塁を決めると、福留の左前打で一気の本塁突入。捕手鶴岡のミットをかいくぐるように右足をサヨナラホームに伸ばした。リプレー検証に持ち込まれたクロスプレーも、確信のサヨナラ生還。王者ソフトバンクに先勝した。

 勝負を決めた福留が、一塁側ベンチで真っ先に声を掛けたのは代走で本塁を陥れた俊介だ。「足が遅い!」。顔を見合わせて笑う。1点を巡る攻防で、阪神ベンチが執念のタクトを振るい、ドンピシャに的中した白星だ。

 同点の9回2死走者なしから北條が安打で出塁すると、金本監督は代走俊介を起用。二塁に進み、福留の放ったゴロが広く空いた三遊間を抜けると、一気に加速して本塁へ。左翼中村晃もバックホーム。送球がわずかに三塁寄りにそれ、鶴岡のタッチをかいくぐり、右足から滑り込んだ。橘高球審は両腕を広げ、1度は歓喜の輪ができた。その直後、審判団によるリプレー検証に入るが、韋駄天(いだてん)は確信していた。

 「タッチされてなかったので、絶対にセーフだと思いました。スタートを切った瞬間に(三塁コーチの)高代さんが回していたので、一気にいった」

 ドラマには伏線がある。2死後、一塁に達した北條も足は遅くない。それでも俊介を指名。1点を奪おうと必死だった。金本監督は「間を抜けて、左中間、右中間、ライト線、レフト線を抜けたときに一塁から一気にかえってほしい。サファテがああいうモーションというのもあった」と意図を説明する。快足の俊介は相手バッテリーの警戒を誘う。サファテは合計5度もしつこくけん制を入れてきた。カウント2-2からの5球目。捕手鶴岡とともに福留のハーフスイングのジャッジを三塁塁審に求める間に、二塁に達した。

 金本監督は「最後、ああいう形で代走を出しておいてよかった。サヨナラになって、あらためて思う」と声をはずませながら“注文”も忘れない。執拗(しつよう)なけん制に遭った俊介が二盗のスタートを切るのが遅かった点だ。「逆に遅かったのが、良かったかも分からない。ハナから行ったら(一塁が空いて福留が)敬遠になったかもしれん。勝ち運もあったのかな」と笑う。不思議な巡り合わせで最強のタカ軍団に先勝。機動力が完璧にハマった痛快劇だった。【酒井俊作】