六甲おろしが鳴りやまない。こんな痛快な夜は久しぶりだろう。阪神が4回、一気の9得点。打てばヒットの10打数連続安打。歴史的なビッグイニングは、3番江越大賀外野手(23)から始まった。ヤクルト杉浦から右前打。6者連続安打などで一巡後、さらに右前打でつなげた。黄色いユニホームを着るウル虎の夏。虎党もお祭り騒ぎに酔いしれた。

 お祭り騒ぎの口火は江越が切った。4回先頭で杉浦の初球をとらえて右前打。ここから打線がつながり、原口の先制3ランなど6連打で一気に4点を奪った。だが、ヒット1本では満足しない。チームが2点を加えて、1イニングに2度目の打席が回ってくると目の色を変えた。

 「追い込まれたので、強引にならずにいこうと思いました。(一巡していたことは)全然気になっていなかったです」

 ヤクルト2番手、育成出身の右腕中島に追い込まれたが、4球目のスライダーに食らいついた。鋭い打球が右前へ転がった。だがどんちゃん騒ぎのスタンドとは対照的。いつもヒットを打った時と同じように表情を変えず、一塁コーチとタッチを交わした。1イニング2安打。大量9得点を導き、3番打者としての存在感を見せた。

 4月には4試合連続弾を放って沸かせたが、その後不振に陥り2軍に降格。6月末の再昇格後も、ボール球を振らされて三振する場面が目立つなど、好調とは言えない。だが金本監督もこの男を何とか開眼させようと、試合前の打撃練習では連日の身ぶり手ぶりでアドバイスを送っている。「どんな球でも対応できるように、膝を柔らかく使うようにと言われました」。

 江越も意気に感じ、反復練習に明け暮れている。崩されないフォームをものにするため、ティー打撃ではトスを上げる浜中コーチにタイミングを外してもらうこともある。「間を作るようにしています。良くなっています」。ようやくつかみつつある好感触。試行錯誤を重ね、この日のマルチ安打が生まれた。

 7日から出場した13試合は3番での起用が続いている。すべては金本監督の期待の裏返し。ようやく後半初のマルチ安打を記録し、結果で応えた。タイムリー自体は4月22日の広島戦以来3カ月なく、本塁打も4試合続けて放った4月9日を最後に4本のままだ。祭りの余韻に浸ることなく、前に進み続ける。【山川智之】