プレーバック日刊スポーツ! 過去の8月14日付紙面を振り返ります。2011年の3面(東京版)は、由規、虎止めた直接対決5戦ぶり勝利再び5差でした。

 ◇ ◇ ◇

<ヤクルト8-2阪神>◇2011年8月13日◇神宮

 阪神戦の連敗を4で止めたのは、この右腕だった。ヤクルト由規投手(21)が投げては140球、2失点完投。打ってはセーフティーバントを決める活躍で、猛烈な追い上げを見せている2位阪神を蹴散らした。5月26日以来となる左脇腹痛から復活の勝利は、チームを救う1勝になった。

 滝のように流れる汗が、力投を物語っていた。140球を投げ抜き、勝利を飾った由規は、荒木チーフコーチの差し出した手を両手で握り、おじぎをした。試合前と試合中、ベンチの裏で何度も「投手がいないから代えないよ」と言われた。完投が義務づけられた試合で、見事に結果を出した。「投げたなあって実感があります。ようやく納得のいく投球ができました」と胸を張った。

 意識したのは腕を振ることだった。これでもか、とばかりに腕を振った。最速155キロを記録。速球王の自慢の直球が戻ってきた。左脇腹痛から復帰後、1軍では2試合を投げたが、思うような結果は出なかった。真っすぐで押せず、チェンジアップやカットボールでかわす投球。それではダメだと思った。テレビでは高校野球の熱戦が繰り広げられていた。刺激を受けた。「原点というか、思い切り腕を振っていきたい」。そう誓いながら上がったマウンドだった。

 ケガ明けから、左脇腹を無意識にかばっている感じがあった。いい時のフォームを思い出すべく、去年のシーズン後半のビデオを繰り返し見た。この登板に向けて、リリースポイントも修正。その成果が、首位決戦の舞台で発揮できた。

 この日は投球だけではない。打席でも魅せた。同点に追いついた直後の2回2死二塁、初球をセーフティーバントで三塁前に転がした。「相川さんが敬遠されるかなって思って待っていた時に思いついたんです」。隣にいた川本に相談し「やるなら初球と思った。メッセンジャーの動きもよくなかったんで。プロ入り初というか、野球をはじめてからないんじゃないかな」というセーフティーは、打者一巡、四球を挟んで5連打の猛攻につなげる絶妙なバントになった。

 試合前に林昌勇が腰痛のため抹消。小野寺が2軍から駆けつけたとはいえ、リリーフ陣に不安のある状態だった。打線の援護もあったが、由規が1人で投げ抜いたことに、大きな意味があった。達成感に満ちた若き右腕のほおが、赤く上気していた。

※記録や表記は当時のもの