記録ずくめのアーチストだ。DeNA筒香嘉智外野手(24)が広島戦で1回に先制3ラン、4回にもバックスクリーン左横に3ランを放った。自身初の大台に乗せる30、31号で月間6度のマルチ本塁打はプロ野球記録を更新。また月間15本は13年4月のブランコを抜く球団記録となった。本塁打王を争うヤクルト山田を抜いて単独トップに立ち、チームの5割復帰に貢献。首位広島とのゲーム差は10だが、夢は広がる。

 打った瞬間に分かった。1回1死一、三塁。筒香が初球内角139キロ直球をとらえる。マウンド上の野村もぼうぜんと立ち尽くすしかない。真っ赤なスタンドも静まり返る中、右中間最深部に先制3ランが舞い落ちた。「打った瞬間いくと思いました!」と言葉も弾む。30号は自身初。4回にはチェンジアップをバックスクリーン左横まで運び「うまく押し込めました」と手応え十分で、記録ずくめのアーチデーとなった。

 球宴で筒香を全セの4番に据えたヤクルト真中監督が、あきれるように話した。「ゾーンに入っているよね。ストライクを投げちゃダメって感じ。メジャーに行く前の松井(秀喜)に似ている」と最大級の賛辞を贈った。02年の松井は年間50本打ったが、月間最多は8月の13本だった。この年は右投手も左投手も関係なく右から22本、左から28本と打ちまくった。

 筒香も右投手の方が19本で多いが、左からも12本を放っている。方向も右翼が21、中堅が3、左翼が7と広角に打ち分けている。打点も73でトップのヤクルト山田に4差と迫る勝負強さを発揮。打率も7厘差の2位。当然、相手が勝負を避けるようになってきた。我慢との闘いだが、ボール球を追いかければ打撃が崩れると心得ている。

 前夜(28日)、ラミレス監督が声をかけた。「1打席に1個はストライクが来る。その準備をしよう」と。本塁打王を2度獲得した強打者だから筒香の気持ちを察したアドバイスだった。相手チームの監督には同情的に言う。「筒香が敵なら、どうぞ歩いて下さいです。次の打者と勝負しますよ」。ヤクルト真中監督と同じく、真っ向勝負は危険と指摘する。

 首位広島の意地、最多勝争いでトップを走る野村のプライドだったのだろう。筒香は勝負してきたストライクをことごとく打ち砕いた。野村には3打数3安打でセ界の4番のすごみを見せつけた。山田を抜いても意識はない。「数字は気にしない。自然にそうなってきた。今はチームで1試合1試合ていねいに戦っていこうと話している。自分のことはちょっと置いといて、という感じです」。考えは控えめだが、バットの勢いは止まらない。打てば打つほど、チームの勢いは増し、初のCS進出も近づいてくる。【矢後洋一】

 ▼筒香が30、31号を放ち、山田(ヤクルト)を抜いて本塁打争いのトップに立った。7月2日時点では山田27本、筒香17本と最大10本差あったが、そこからわずか20試合で山田を逆転した。これで7月は15本塁打となり、1試合2本塁打以上は6度目。月間15本以上は13年8月バレンティン(ヤクルト=18本)以来12人、14度目で、DeNAでは13年4月ブランコの14本を抜く球団新記録。月間6度のマルチ本塁打は76年5月ブリーデン(阪神)の5度を上回るプロ野球新記録だ。月間本塁打のプロ野球記録はバレンティンの18本だが、日本人選手は81年7月門田(南海)らの16本が最多。今月あと1本打てば日本人選手の記録に並ぶ。