ピンチでギアを上げられるのが、エースの証明だった。ロッテ涌井秀章投手(30)は2-0の7回先頭から、初めて連打を浴びた。送られ1死二、三塁。一打同点の場面で、楽天は代打銀次が立った。バットコントロールが巧みな好打者にも、気持ちの余裕を失わない。「最悪、歩かせても。次で打ち取る」。内角を厳しく突く。フルカウントから6球目は膝元へのカット。振らない。歩かせた。

 塁が埋まっても落ち着きは変わらない。左が続く。銀次への攻めを貫いた。聖沢。内角球で腰を引かせ、外のボール球148キロで押し込む。左飛。浅い。犠飛にはならない。藤田はカウント1-1から3球内角真っすぐ。マウンド上空への飛球を田村が捕りにいく。見届けることなく、さっそうとベンチへ向かった。「インにいけば、きれいなヒットはない。最悪、ポテンはしょうがない。それより、外に投げてコツンと(安打を)打たれるのが嫌だった」と明かした。

 圧巻の裏で、右の前腕がつりかけていた。まだ110球。珍しく交代を申し出た。ただし、最大のヤマはきっちり乗り越えた。7回5安打無失点。チームの連敗を4で止め、9勝目だ。伊東監督は「さすがエース。踏ん張ってくれた」と賛辞を惜しまなかった。

 試合前に母校・横浜の3年ぶり夏の甲子園を見届けた。プロでも屈指のランニング量を誇るが「高校時代の10分の1でしょう。走るのは基本だと思います」と涼しい顔で言った。当時の練習が全て今につながっていると言う。聖地を沸かせたあの頃も、今も、頼れる右腕でいる。【古川真弥】