さあ、ミスターへの挑戦だ! 阪神ドラフト1位高山俊外野手(23)が29日、猛打賞の新人プロ野球記録到達に意欲を見せた。ここまで球団新人最多に並ぶ135安打。今日30日からの巨人2連戦(甲子園)を残し、猛打賞(1試合3安打以上)は13度で、58年巨人長嶋茂雄が記録した14度まであと1度。1年目シーズンを締めくくる「伝統の一戦」で、スーパースターの背中を追いかける。

 クラブハウスに続く通路には十数人の報道陣がごった返していた。一言一句も漏らすまいと熱視線を向けられる中、高山は静かに切り出した。

 「正直(安打記録は)そこまで別に…。超えた方がいいけど、そこはあまり意識していません。ただ…」。そして、堂々と言葉を続けた。「猛打賞の記録はなんとか、という気持ちがありますね」。

 1年目のシーズンも残り2試合となった。135安打は98年坪井に並ぶ球団新人最多。あと1安打で、新記録樹立となる。一方、猛打賞は13度。2リーグ制後の新人猛打賞プロ野球記録、58年巨人長嶋の14度に迫っている。狙うなら貪欲に後者だ。冷静な物言いが目立つ23歳にしては珍しく、記録に対する野心を隠さなかった。

 平らな道のりではなかった。シーズン序盤は左投手のボールゾーンへ沈む変化球に苦戦し、何度となくバットは空を切った。ことごとく内角直球に詰まらされた。妥協することなくフォーム修正を続けたから、今がある。

 「軸回転で回ることは心掛けています。早くトップを作るというか、それがギリギリだと体や手で細工してしまうので、間を作ってタイミングを取って、自分のスイングができるようにと思っています」

 配球を読み、ボール球の変化球にグッとこらえられるようになった。打球に角度がつくようになった。試行錯誤した1年の集大成として、レジェンド長嶋茂雄が残した記録への挑戦はふさわしい。

 「(大先輩の名前は)すごいというか、僕はレベルが違いすぎて、あれですけど…。(記録に)並んだから(レベルも)並んだという気持ちになるわけではなくて、1つの区切りとして目指していきたい」

 千葉出身、東京6大学リーグから鳴り物入りで伝統球団に入団。共通項が多いのはもちろんのこと、ミスターの偉大さは23歳の若武者も骨身に染みている。最終2連戦に向け、甲子園室内練習場で全体練習に参加し、フリー打撃などで汗を流した。CS進出を絶たれた今もなお、ワクワクする話題を提供してくれる破格の新人。猛打で、ルーキーイヤーを締めくくる。【佐井陽介】

 ◆58年巨人長嶋の猛打賞14度 初の猛打賞は、チーム25試合目の5月4日広島戦。6試合目の高山と比べると出遅れたが、翌日5日の広島戦ダブルヘッダー第2試合で3安打し勢いをつけた。猛打賞の14試合中、10試合で本塁打を放ち計16本を記録。この間35打点の荒稼ぎ。6月22日大洋戦での3本塁打をはじめ、2本塁打も4度と計5度のマルチ本塁打と打ちまくった。この固め打ちがきき、29本塁打、92打点で2冠を獲得。さらに現在もセ新人最多の153安打と、球史に残るルーキーイヤーを送った。