予期せぬ不安が歓喜に変わった。争奪戦が予想された桜美林大・佐々木千隼投手(4年=日野)は最初の指名でまさかの入札なし。ロッテ、DeNA、巨人、日本ハム、広島のくじ引きを外した全5球団が外れ1位で指名する史上初の競合抽選の末、ロッテが交渉権を獲得した。東京・町田市の同大で会見した佐々木は、都立高野球部出身者初のドラフト1位、桜美林大初の支配下指名と初ものずくめに笑顔。日本ハム大谷と同学年の最速153キロ右腕は新人王と優勝を誓った。

 大きなどよめきの中、佐々木が無表情のまま唇をかみしめた。学内の「荊冠(けいかん)堂チャペル」で見守ったドラフト中継。画面に大映しされた12球団の1位指名選手に、自分の名前がなかった。「このまま呼ばれなかったらどうしよう」。不安を押し殺し、乾いた唇を舌で湿らせて次の指名を待った。

 数分後、思い焦がれた大歓声に包まれた。最初の1位指名でくじ引きを外した全5球団から「佐々木千隼」の声が上がった。チャペルに集まった学生ら約220人が手をたたいて祝福した。抽選の結果、ロッテが交渉権を獲得。「いつ指名していただけるんだろうとずっと待っていました。1位で指名していただいて光栄。うれしい気持ちが一番大きかったです」と、ようやく顔をほころばせた。

 最速153キロの直球と6種類の変化球を操るが武器は「闘争心」と自負する。「打たれたくない。絶対に抑えてやるんだって思いでやってきた」。プロ入りを志した大学2年夏から、食事量を増やすなど肉体強化に励んだ。1年間で体重は75キロから83キロに増量し、球速アップに成功。桜美林大史上初の支配下指名選手として、都立高野球部出身者初のドラフト1位選手にまで上り詰めた。「都立でもプロ野球選手になれると証明できた」と胸を張った。

 同じパ・リーグを「二刀流」で席巻する日本ハム大谷と同学年。「投げ合いたいというか雲の上の存在。まだまだ勝負できる実力はない」とプロの先輩をリスペクトした。その上で「チャンスがあれば一緒に日の丸を背負って野球をしたい思いはある」と20年東京五輪までに腕を磨く決意だ。

 ロッテには憧れの涌井がいる。「小さいころから大好き。魅力のあるボールを投げられる投手。同じ球団でプレーさせていただけるので吸収できれば」と向上心は尽きない。「千葉は海が近いので海鮮丼がおいしい印象」と笑わせた後、表情をグッと引き締めた。「対戦したいのは日本ハムの中田さん。目標は新人王。1軍に入って優勝に貢献できるようになりたい」。伸びしろ未知数の佐々木が、プロでさらなる進化を遂げる。【浜本卓也】

 ◆5球団で抽選 創価大・田中と外れ1位の桜美林大・佐々木が、ともに5球団による抽選となった。同じ年に5球団以上の競合抽選が2度行われたのは、07年大学・社会人ドラフト1巡目の東洋大・大場翔太(6球団)、愛知工大・長谷部康平(5球団)以来2度目。佐々木のように最上位入札以外での5球団は88年2位指名の高知商・岡幸俊に並ぶ最多タイで、外れ1位では初めて。

 ◆都立高出身の指名 桜美林大・佐々木は都立の強豪日野出身。都立高出身の指名は14年鈴木優投手(雪谷=オリックス9位)以来。過去には箕島(和歌山)からプリンスホテル入社後、定時制の竹早に転校して卒業した住吉義則内野手が90年1位で日本ハムに指名されたが、竹早に硬式野球部はない。都立高野球部を経ての1位指名は佐々木が初めて。