球団関係者がこぼした。「ロングティーでお金取れるよ」。2日連続で行われた強化メニューのロングティー。

 2日連続で、今日の一番は鈴木誠也外野手(22)だ。「死に物狂い」の表現がここまで似合う選手はいない。「オラッ!」、「クソー!」など声にならない声を絞り出す。飛距離は他の選手の群を抜く。バックスクリーンに直撃させる大飛球や、右中間にあるスコアボードにもぶち当てた。推定130メートルは飛んでいるであろう特大の打球を「行けー!」と叫びながら打ち続けた。

 観客席も息をのむ。雑談はなくBGMがただ、静かに聞こえる。そこに誠也の叫び声。シート打撃での結果を踏まえ「見逃し三振なんてしてんじゃねーよ!」、「ムカついてきた!」と心の底からあふれる声が響く。スタンドからは自然に「頑張れ!」と声が飛ぶ。柵越えすれば拍手が起こった。一体だった。

 衝撃的だったのは「おかわり」だ。柵越えが出来ないと、隣の選手のかごから4球ボールをつかみとった。それを4回続けた。その貪欲さに、2つ隣でトスを投げていた石井打撃コーチも数球のボールを転がした。鈴木に嫌な顔はない。またひたすら振り続けるのだ。

 だが、なかなかラスト1球を柵越え出来ない。そして、「おかわり38球目」だった。「これはいっただろ!」と言う東出打撃コーチの声を受けた打球は、バックスクリーン中段に当たって、はねかえった。「ボン」という音は静寂からの解放の合図だった。スタンドは一気に大きな拍手に包まれ、鈴木も両手を挙げて応えた。

 自分に厳しく、飾らない、妥協しない。懸命に野球と見合う。その姿は人を魅了する。本物の気配が漂っている。【広島担当=池本泰尚】