「きょうは出るん?」。東京ドームの試合前、巨人ベンチで坂本勇人に声をかけた。巨人担当だったことはないが、なぜか軽口をたたいてくれる。「いやあ」と首を振った。「出んかったらおもろないよね?」と続けると「勝負のためですから」。そんな男に勝負どころで大きな仕事をされ、阪神は接戦を落とした。

「プロ野球に『ええ勝負やった』いうのはないんよ」。その自説を持つのは前監督・岡田彰布(オーナー付顧問)だが、そう言いたくなるゲームだった。阪神今季74試合目にしてベストバウトだったと思う。そこで競り負けたのは痛いが見応えのある試合だった。

打たれたのが無敵の高橋遥人というのも劇的である。序盤から安打を許しながらも1失点にこらえ、懸命に投げていた7回。「ハルト対ハヤト」の対決に敗れ、力尽きた。だが今季初黒星を誰も責めることはできない。おかしな言い方だが打たれっぷりもよかった。

同率首位での「伝統の一戦」3連戦だ。勝った方が首位に立つ大きな舞台だ。そこでがっぷり四つに組んでの戦い。佐藤輝明も打ったし、前川右京も打った。高橋とバッテリーを組んだ梅野隆太郎も1回、三盗を企てた浦田俊輔を刺すプレーは光ったのである。

それでも負けたのは事実だ。痛い星を落としたと言う見方はできる。言い方はよくないが阪神には「勝利の女神」がほほえみかけていたのか。5回まで無安打に抑えられていた戸郷翔征が打席のアクシデントで降板。投手が代わった6回に逆転に成功した。運は阪神に向いていたような気もするのだ。

それでも巨人は必死だった。前述したようにベテランのスターが勝利のために控えに甘んじるというムードがあるのだろう。ベンチからも気合が感じられた。阪神は連覇へ向け、ここで最初のピンチを迎えたのかもしれない。

言うまでもなく、大事なのは翌日のゲームだ。ハッキリ言って、ここで勝てばこの日のことは大きな節目ではなくなると思う。逆にズルズルいけばそれこそまずい状況になるのだ。

「大きな1戦1戦になってきますね」。もちろん、それを分かっている指揮官・藤川球児は話した。冷静だったが表情は厳しい。ヤクルトはサヨナラ負け。まだ先は長いが巨人との一騎打ちになるのか。そして、そこを勝ちきれるのか。球宴前、最大のヤマ場だ。(敬称略)

巨人対阪神 7回裏巨人2死満塁、代打坂本勇人(後方)に3点適時二塁打を浴びる高橋遥人(撮影・江口和貴)
巨人対阪神 7回裏巨人2死満塁、代打坂本勇人(後方)に3点適時二塁打を浴びる高橋遥人(撮影・江口和貴)