楽天美馬学投手(30)が、チーム初完投で無傷の3勝目を挙げた。春季キャンプ中に痛めた腰付近は万全の状態ではないものの、不屈の精神で志願の完投を申し出た。13年4月以来、勝ち星から遠ざかっていたソフトバンク相手に9回7安打2失点。先発野手の全員安打の援護も受け、安定感ある投球を披露した。

 7回の投球を終え、美馬はベンチで汗をぬぐった。タオルを置くと、与田投手コーチに言った。「最後まで行かせて下さい」。梨田監督も了承した。「こんな機会はめったにない。中継ぎの人たちも疲れているはず」。強い責任感で、志願の完投を告げた。

 最後はバテた。10点リードの9回1死二塁。上林に左翼線への適時二塁打を許した。それでも、11得点を生んだ打線の援護が精神的に余裕を与えてくれた。カーブ、フォーク、チェンジアップ、シュート。多彩な変化球を低めに集め、9回7安打2失点。「これだけ援護してもらっているのでね。気持ちよく投げられました」。あくまで、笑顔を貫いた。万全ではない、腰をさすりながら。

 「地獄だった」。久米島で行われていた春季キャンプをそう振り返る。3日目に、「腸腰筋」という股関節の部位に、痛みを感じた。「歩くこともしんどいし、ダッシュも出来ない。もちろんピッチングなんて、まともにやることも…」と毎日、歯を食いしばりながら練習に参加していた。かばっていた両足にも痛みが発生。「うまくいかないんだなあって」。あれから2カ月が過ぎたが、まだ時折痛む。そんな状態でも、最後まで投げ抜いた。

 敵地で呼ばれたヒーローインタビュー。少し恥ずかしそうに話した。13年4月以来、4年ぶりのソフトバンク戦勝利。「試合前に記者の人から言われて…。そんなに勝っていないとは思っていなかったんですけど…。何とか終わりにしたい、と思っていました」と、自虐ネタをかました。

 チームは前日21日まで、2戦連続でサヨナラ負けを喫していた。そんな不穏な空気、さらには自身の負の歴史に痛みを抱えながら終止符を打った。身長169センチの“大きな”男が、大役を果たした。【栗田尚樹】