<阪神6-5中日>◇28日◇甲子園

 1カ月ぶりの甲子園のマウンドで、勝ち名乗りは受けられなかった。それでも、サヨナラ勝ちという結果がすべてを洗い流す。北京五輪から戻ってきた阪神藤川が、復帰戦で勝ち投手になった。予期せぬ失点こそ喫したが、チームの勝利の輪には笑顔で加わることができた。

 「勝ってよかったよ。長いことやっていれば、こういう日もある。久しぶりの甲子園というのは気にならなかった」

 リーグ戦の登板は、32セーブ目を挙げた7月26日・中日戦以来だった。チーム合流から3戦目まで待たされた復帰マウンドは、いきなりしびれる局面だった。1点リードの9回表。「昨日の岩瀬は3点差で楽な場面。球児もそういうところで投げれば楽だったろうけどな」と岡田監督も気にかけながら送り出した。

 不安をふくらませるように、先頭の代打立浪に154キロ直球を打ち返された。右前に抜ける安打で出塁を許した。井端のバントを神業の処理で二塁封殺に仕留めたが、中村紀への2球目が暴投。同点の走者を二塁に進めてしまった。

 中村にはフルカウントからフォークを中前にはじき返された。リードが吹き飛ぶ適時打。さらに1死一塁で、元韓国代表の李炳圭を迎えた。北京五輪の準決勝、韓国戦での失点を思い返させる状況だった。

 ただ藤川は、トラの守護神に戻っていた。北京の悪夢に、1球でケリをつけた。李炳圭のゴロをがっちりつかみ取ると、余裕を持って併殺に仕留めた。「これからは勝つことだけ。しっかりやっていきたい」。目の前にある役割を、再認識した。

 甲子園でナインと再開した26日。見慣れたはずのタテジマが、少し太く、濃く見えた。「日本代表のユニホームを見慣れていたからかな」。結果を残せなかった国際舞台から、日常の戦場に戻ってきた。手に出来なかった五輪のメダルの分まで、チームの優勝という夢を追いかける。