<阪神1-0広島>◇13日◇甲子園

 サヨナラ勝ちの虎だ。0-0で迎えた広島22回戦の延長10回裏、阪神の矢野輝弘捕手(39)が左越え二塁打で決勝点をもぎ取った。阪神のサヨナラ勝ちは、ここ5試合で4度目となり史上初になった。また矢野は9日のヤクルト戦18回戦に続く11度目のサヨナラ安打で、セ・リーグ歴代6位タイに浮上した。阪神は19イニングぶりの得点が劇的勝利につながる勝負強さで、優勝マジックナンバーを16とした。

 ヒーローは右腕をグルグル回し、小躍りしながら逃げ回った。歓喜の祝福をしようとナインが追いかける。勝利を確信した二塁から三塁ファウルゾーンまで走った矢野は、観念したように両手を天に突き上げ、手荒い洗礼を受けた。場所は敵軍ベンチ前。ちょっと風変わりなサヨナラ勝ちの儀式となった。

 「最初にシモが見えたんよ。それで、もう…。条件反射的に逃げてもうたよ。最高の笑顔できてくれたんで、ついつい…。ホンマ、ラガーの気持ちになってもうたよ」。下柳の愛犬ラブラドールの名前を持ちだし、豪快に笑った。

 0-0で迎えた延長10回裏。1死一塁で矢野に打席が回った。2球目のストレートをたたいた打球は左翼嶋の頭上を越えた。一塁走者関本がホームに転がり込んだ。フェンスを直撃するサヨナラ二塁打。わずか5日間にして3度目のお立ち台だ。

 9日から11日のヤクルト戦で3試合連続サヨナラ勝ち。その最初の試合でサヨナラ4号を打ったのが矢野だった。3戦目にも9回同点打で、決勝押し出し四球の今岡とともにヒーローに。ここ5戦で4度のサヨナラ劇はまさに神懸かりだ。

 矢野が本塁打を打てば勝つ、タイムリーを打てば勝つ。そんな神話は、ただの偶然ではない。チームメートの努力、苦労を何とか形にしてあげたい、と願う。北京五輪ではブルペンでの電話受けから水分補給のドリンク渡しまで何でもやった。「やらないよりやった方が良かったかな。やらないと、その人の苦労も分からないから」。中日時代は控え捕手。失敗も怒られもした。苦労を知る男だからこそ、頑張る者の気持ちが分かる。

 先発下柳が粘りの7回0封。9回の守りではアラフォートリオの1人、金本が決勝点をもぎとるファインプレー。直前の鳥谷の失策を帳消しにした。自らもサヨナラ打で、直前にバント失敗した関本を救っていたが、自分のことよりチームメートをたたえた。「中継ぎが粘ってくれた。カネの守備もすごいカバーだった。誰かをカバーして行くのがいいチームだし、本当に強いチームだと思う」。

 試合開始直前にはデーゲームで巨人がヤクルトに辛勝するシーンを見た。迫り来る2位の足音を感じながらも、自分のチームの底力を感じた。「もう余裕やという人もおるけど、勝負事だもの。やってる人間は何があるか分からないと思っている」。得点力不足は深刻だが、チームが一丸となってサヨナラ勝ちにつなげている。苦しんで苦しんでVマジックは1つ減り16となった。【片山善弘】