<日本シリーズ:巨人2-3西武>◇第7戦◇9日◇東京ドーム

 西武が巨人に3-2と競り勝って、04年以来13度目の日本一を達成した。渡辺久信監督(43)は史上8人目となる就任1年目で日本シリーズを制覇した。1点差の5回から中2日のエース涌井秀章投手(22)を中継ぎ起用するなど、執念の采配で栄冠をつかんだ。現役時代に西武黄金時代を築いたルーキー監督が常勝軍団を復活させ、選手の手で9度、宙に舞った。西武は13日からアジアシリーズ(東京ドーム)に出場する。

 信じた選手が奇跡を起こした。手負いの獅子が、がけっぷちから巨人本拠地東京ドームで2連勝し、逆転日本一を飾った。抱き合うナインを頼もしそうに見つめながら、渡辺監督はゆっくりとマウンドの輪に歩を進めた。全員で天に「NO・1」の人さし指をかざしたのを合図に、渡辺監督の100キロの巨体が9度も宙を舞った。

 渡辺監督

 就任1年目の監督を盛り上げてくれて、選手には本当に感謝しています。やるからには、日本一を目指そうと思ってた。負け犬にはなりたくなかった。近年にない、いい日本シリーズができたことがうれしかった。

 巨人と最終第7戦までもつれ込む激闘を制した興奮が、声を上ずらせた。昨年26年ぶりBクラスの5位に沈んだチームを復活させ、リーグ制覇からクライマックスシリーズと完全優勝。今年3度目の胴上げは格別だった。

 最終戦でも賭けに出た。先発には今シリーズ初登板の西口を抜てき。故障明けで不安を抱え、1カ月以上実戦から離れている。なおかつ東京ドーム、日本シリーズの相性もよくない。先発ローテーション通りなら石井一だったが「西口は生え抜きで200勝を狙える投手。ずっと投げさせたいと思っていた」。159勝右腕のプライドをくすぐり意地にかけた。

 西口は2回2失点と精彩を欠いたが、黒星をつけまいと反撃した。3回以降は石井一から、中2日の涌井-星野-守護神グラマンとつないで、7イニングを無失点。鮮やかな継投に打線が応え、5回には代打ボカチカのソロ本塁打で1点差にした。好投の石井一の打席だったが、渡辺監督は「点を取らないと勝てない。迷いはなかった」とスッパリ代えた。8回に2点を挙げ、土壇場の逆転劇へとつなげた。

 今シリーズは故障でブラゼル、G・G・佐藤が不在。正捕手の細川も欠場、中島も万全ではない中、持ち駒をフル回転させた。第6戦では中2日の岸を中継ぎ起用し逃げ切りに成功。第1戦では8回1安打1失点の涌井に代え、1点差でグラマンを投入。不調だった守護神を生き返らせた。新人監督とは思えない肝の据わった采配で、日本一をたぐり寄せた。

 選手を信じた。シリーズ前にキーマンを問われた際、「うちは全員」とあえて個人名は挙げなかった。信頼の重要性を教えてくれたのは亡き父、雄次郎さんだった。小学6年で出場した群馬県大会の決勝で投げて0-1で競り負けた。終盤の味方失策が響いて敗れた。マウンドでふてくされていると、応援席にいた父から「おまえは1人で野球やってるつもりなのか」と試合中に怒鳴られた。「家に帰ったらボコボコにされたよ」。体に刻まれた痛い記憶が、いつも原点を思い出させた。今年7月、群馬の実家に里帰りして墓参りした。「オヤジ、力を貸してくれ」。墓前で手を合わせた。

 渡辺監督は「昨年秋のキャンプで1年後の姿を想像していたけど、これだけのことをやってくれると思わなかった」。信頼の選手起用で、故障者続出の危機を乗り切った。ピンチでもベンチで動じない。ミスしても怒るどころか、笑顔で迎えた。そんな監督の姿に選手も逆転を信じた。現役時代、敵地7勝の最多記録を持つ「シリーズ男」は監督になっても健在だった。【柴田猛夫】