<巨人7-4広島>◇24日◇東京ドーム

 キムタクさん勝ちました!!

 始球式をした長男恒希(こうき)君(10)も目に焼き付けてくれましたか-。くも膜下出血で7日に亡くなった巨人内野守備走塁コーチの故木村拓也さん(享年37)の追悼試合で、原巨人が手向けの1勝を贈った。1点を追う8回、谷佳知外野手(37)のプロ初の満塁アーチは劇的な代打逆転弾となった。思いが乗り移ったような一打で、チームは4連勝。ガッチリ首位をキープした。

 谷は、お立ち台で声を詰まらせた。「今日は拓也の日だったんで、ぜひとも勝ちたいと思って臨みました。拓也とは同級生。いつも励まし合ってやってきたんですけど。先に逝って。本当に悲しい。いつも…。涙が止まらない…」。最後の方は言葉にならなかった。

 亡き友の思いも乗せて、ボールは左翼席へ飛び込んだ。1点を勝ち越された8回、1死満塁で代打に向かった。「とにかく勝つという気持ちだった」。終盤に巡ってきた好機に、気合がみなぎっていた。カウント1-2、広島高橋の外角高め直球139キロを引っ張った。「先っぽ。でも振り抜くことしか考えてなかった」と執念のフルスイング。打った瞬間、ガッツポーズが飛び出した。逆転満塁弾。グランドスラムは昨年の中日とのクライマックスシリーズ以来。レギュラーシーズンでは初めてだった。「こんなところで打てるとは思っていなかった。この試合で打たせてもらったのは拓也のおかげ。天国に行っていると思います」と声を上ずらせた。

 心から奇跡を願っていた。4月7日、訃報(ふほう)を遠征先の兵庫・芦屋の宿舎で聞き、言葉を失った。「回復すると信じて、奇跡を願っていたが信じられない。いつも明るくて、いずれは上に立つ人間なんだと思っていた」と感極まった。04年のアテネ五輪をともに戦った。巨人では同じ移籍組。年も同じで、プライベートも親交が深く、気心の知れた仲だった。「ここまで来られたのも一緒にやってきたからだと思っている」と感謝の気持ちでいっぱいだった。木村さんと同い年のベテランが、木村さんにささげる最高の1発を放った。ウイニングボールは、この日の始球式を務めた恒希君に贈った。一塁側ベンチ前で手渡し、抱き締めた。「これから大変だろうけど頑張れ。野球をやってるんだろう。プロを目指してな」。自らも2児の父。無念は痛いほど分かっていた。打ったバットにはサインを入れ、勝利を見届けてくれた家族に贈った。

 原監督も「谷と拓也は同級生で仲が良くて、試合後のベンチ裏で2人でおいしそうにたばこを吸っていた光景が目に浮かびます。何か不思議なものを感じます」と見えない力を口にした。そのベンチ裏、谷は「泣かないつもりでやってたけど、しょうがないですね」と目元をぬぐった。目指すは2年連続日本一。「頂点しかない。拓也のためにも今年は頂上まで行きたい」と誓った。【古川真弥】

 [2010年4月25日9時19分

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