<楽天3-1オリックス>◇29日◇Kスタ宮城
楽天が東北に大きな1勝をささげた。クリネックススタジアム宮城でオリックスと対戦。東日本大震災の影響で今季初の試合開催となった本拠地には、超満員の2万613人のファンが集まった。大震災で新たな使命感を抱いた星野仙一監督(64)は、3-1の快勝を「人生に残る1勝」と表現した。先発した田中将大投手(22)は、完封こそ逃したものの、138球の熱投で1失点完投勝利(今季2勝目)をマークした。
目尻を穏やかに下げ、クリムゾンレッド一色のスタンドに右手を振った。凱旋(がいせん)勝利の有言実行。開幕勝利、代替甲子園でのホーム開幕勝利、そしてこの日と勝利球を3個集めた星野監督は「この環境下、選手は本当に頑張った。人生に残る1勝です」とかみしめながら言った。
幾多の経験をしてきたつもりだったが、人生について考える64歳の日々だった。一時帰郷した4月8日、仙台東部道路を南下する車窓からの風景が訴えかけてきた。数キロ先の海岸から押し寄せた津波は、宮城県を尾根のように貫くこの道路で止まった。向かって左に荒野、右には変わらぬ田園風景があった。「道1本、数十メートル隔てただけで、水の流れがほんの少し変わるだけで、人生が変わってしまう」。車は県最南部の山元町に向かった。体育館の床が天井に到達し、図書館の児童書が散らばったままの小学校。星野監督は奥の理科室にこもったまま、10分ほど出てこなかった。
普段から「オレは人が大好き。幼いころ裕福じゃなかったからかな。身分とか地位なんて一切気にしない。裏切られてもいい。来る者は拒まない。仲間、つながりは財産だ」と言う。宝を奪った自然を「憎い」と表現し「オレの『頑張れ』なんて、何の力も意味もない」。悟ったのは人生の運命と無情さだった。
最後に訪れた避難所ではお年寄りの手を積極的に握った。今、生きていることを共有してほしかった。
星野監督
ミスター(長嶋茂雄氏)は『野球とは人生そのものである』と言うが、同感だ。オレのちょっと上、70代の方々はONで育った。オレのこと、知らない人も多いだろう。もう1度、わくわくする感覚を思い起こさせてあげたい。
打たれても打たれても。むき出しで高い壁に挑んだ。必死にもがくことが生きている証しで、歩んできた人生だった。だから「貯金をして仙台に帰る」と、高い目標をあえて課した。
仙台を1度離れるとき「元気だけは出していく」と決めた。オーバーアクションで声を荒らげ、選手にも何かを感じ取らせたかった。この日、鮮やかな連打で奪った3点は「センター中心で素晴らしかったが、もっとビッグイニングにしないと」。T-岡田と力勝負した田中を見て「ウチの投手は逃げない。勝負する」と振り返った。
大きな節目をクリアし「これから引き締めます」。貪欲な言葉を並べ結んだ。「人生最後かも」と引き受けた3度目の監督業。仙台で存分にもがき、戦い抜く。「多感な高校時代に好きだった歌。球場で、独唱で歌いたいなぁ」。上を向いて歩こう-。上だけ向いて、思いっきりいく。【宮下敬至】



