<ソフトバンク4-0阪神>◇20日◇福岡ヤフードーム

 ソフトバンク山田大樹投手(22)が、育成出身の日本人として初の完封勝利を飾った。阪神打線を128球で4安打に抑え、今季4勝目をマーク。昨年支配下契約した際に強く推薦してくれ、この日71歳の誕生日を迎えた王貞治球団会長に、感謝の1勝を贈った。チームは本拠地で2試合連続完封し、首位を守った。

 不思議と力がみなぎった。山田は、最後の打者マートンを外角の変化球で二ゴロに打ちとった。これまで完投経験のなかった男が見せた圧巻の完封劇。自然と歓喜の輪ができた。育成出身の日本人では初の完封勝利。普段はおとなしい22歳が満面の笑みを浮かべ、素直に喜びを爆発させた。

 「気持ちが乗ったのは9回。一番、楽しいところ(クリーンアップ)に回ってきた。ここを抑えてこその阪神打線。最高にうれしかった」。

 6回、先頭の1番俊介に二塁打を浴びたが、動じない。マウンドに向かった捕手の細川から言われたのは「ヤマ、頑張れ」の一言だけ。それで、自然と力が抜けた。2番上本を内角低めのスライダーで空振りの三振を奪う。3番鳥谷もスライダーで空振り三振。4番新井を138キロ直球で一ゴロに打ちとりピンチを脱した。

 この日は王貞治球団会長の71歳の誕生日。昨季、育成枠から支配下登録された際、強く推薦してくれた恩人だ。09年秋、3年間の育成契約が切れて自由契約となった。練習生として参加した同年の秋季キャンプで、早実時代に投手だった王会長からカーブを伝授された。そして、昨季開幕前に支配下登録された。その後も「けがはしていないか?」と気にかけてくれた。最も尊敬する恩人の誕生日に最高の白星を贈った。

 「王さんに感謝の気持ちを伝えたい。電話します。いろいろ言葉をかけてくれたのは『お前はけがをしなければ、大丈夫だ』という意味にとらえている」。

 「見ざる、聞かざる、言わざる」が座右の銘という。何事にも動じずに本塁打を量産した王会長のように、余計なことは一切、考えずに勝利に集中する。1人、1人の打者を抑えることだけを考え、初の完封勝利につなげた。

 王会長は「すごかったね~。尻上がりに良くなった。自信をつけたみたい」と目を細めた。秋山監督も「波に乗っていった。ずっと安定していた」と絶賛した。2連勝で貯金9。育成枠出身の苦労人が、パの首位をいくチームのヒーローとなった。【奈島宏樹】