<巨人1-3中日>◇17日◇東京ドーム

 オジさんとは呼ばません!

 落合竜の司令塔・谷繁元信捕手(40)が1試合2発の大暴れでライバル巨人を撃破した。5回の先制弾、9回のだめ押し弾ともに完璧だった。40代捕手での1試合2本塁打は野村克也(南海)以来、36年ぶり2人目、セ・リーグでは初の快挙。貯金は今季最多の6に膨らみ、横浜と引き分けた首位ヤクルトに5・5ゲーム差と半歩前進した。

 谷繁がたくましくなった二の腕で白球をしばき上げた。0-0で迎えた5回、巨人西村のフォークを左翼上段まで飛ばした。ベンチもびっくりの特大3号ソロで均衡を破ると、さらに周囲の度肝を抜いたのは2-1とリードした9回だった。今度はアルバラデホの直球を、またも左翼席へ。貴重な追加点となる4号ソロは自身09年7月7日ヤクルト戦(神宮)以来、2年ぶりとなる1試合2発。40代捕手ではセ・リーグ初となる快挙だった。

 「(2発はいつ以来か)覚えていないよ。ホームラン打者じゃないんだから。だって4本だよ?

 ホームラン打者なら20本くらい打ってるだろ。ガハハッ!」

 東京ドームの通路に、谷繁節が響き渡った。本塁打への質問は豪快に笑い飛ばしたが、太くなった二の腕はうそをつかなかった。6月から8月まで左膝靱帯(じんたい)損傷で戦線離脱した。その2カ月間、谷繁は筋力トレを欠かさなかった。「オレはパワーアップして(1軍に)戻るぞ!」。そう宣言していた“公約”が現実となった。

 40歳を過ぎ、1つの故障が即引退へとつながる切迫感の中でプレーしている。そんな谷繁は故障中、ブッダの教えが書かれた本を愛読していた。その中に今の谷繁の心を揺さぶる教えがあった。例えば、明日死ぬと分かっていたら最後の夕食に何を食べるか-。いわゆる“最後の晩餐”について谷繁はこう言う。

 「別にない。いつも通り普通に暮らすよ。だって最後に何か特別なことをするのは後悔があるからだろ。毎日、後悔なく生きていれば、最後にじたばたしなくてもいいはずだから」

 離脱中も1日、1日を悔いなく生きた男が放った2発。最後は谷繁らしく振り返った。

 「1本目より2本目の方がうれしかったかな。何とか追加点が欲しかったから」

 飛距離は劣るが、勝利への貢献度が大きい方をかみしめた。横浜と引き分けたヤクルトに半歩にじり寄った。例え、自分がシーズン無安打でもチームが優勝すれば、それでいい-。そう断言できる司令塔が逆転優勝へのけん引役だ。【鈴木忠平】